第14話 感染13日目

 5:55 目が覚める。タイマーなしでも目が覚めるのは、睡眠がとれているのか、緊張しているのか?


6:00 BT 36.7℃、SpO2 98%


ニュースを見ながら、7時の朝食を待つこととする。


 7時になり、朝食を取りに行く。どうも、3日間で、メニューを回しているようだ。「飽きた」というわけではないが、もう少しバリエーションが欲しいな、というのは正直なところである。ただ、今は、税金で食べさせてもらっており、贅沢は言えない。


 日曜日の朝のテレビも面白くない。2/1にスクープされた大阪市のワクチン配送に伴う中抜き問題、下請け問題については全く報道がない。なし崩しだなぁ、と思う。


 そんなことを考えていると、不意に自分の携帯に電話がかかってきた。慌てて出る。数日前は、転職斡旋会社からの電話で、「今の職場で満足しています」と断ったのだが、今日は居住地の保健所からだった。ホテル療養開始後の経過について報告。「本日までは隔離期間だが、本日でホテル隔離は終了となる」との連絡だった。ホテルとの調整がつき次第、ホテルから退所の時刻が指示されるので、それに従ってほしい、とのことだった。やった。今日で帰れるようだ。久しぶりに家族の顔を見れるのはとてもうれしい。


 連絡があり、帰宅のための準備を始めた。汚れ物はビニール袋に小分けにしてまとめ、カバンの中に。薬なども持ってきた紙袋に入れた。シーツとして使っていた不織布は小さくたたんで、余っていたビニール袋の中にまとめた。おそらく連絡があったのは10:30頃だったかと記憶しているので、たぶん退所は午後だろう。昼食のごみが出るので、最後のごみ出しは昼食後にしようと判断した。


12:00 BT 37.2℃、SpO2 97%


 昼食後、またぼんやりテレビを見ていると、ホテルスタッフから連絡があった。「退所時間は15:15です」とのこと。それまでに部屋をきれいにし、忘れ物がないかどうか確認した。帰宅時間が決まると、それはそれで落ち着かない。10年ぶりくらいに「新婚さん いらっしゃい」を見た。いろいろユニークな夫婦がいるなぁ、と思う。3月で文枝さんも山瀬まみさんも番組を離れるとのこと。山瀬さんは私の一つ上の年齢だったと記憶している。彼女もそんな年なんだなぁ、としみじみ思う。


 部屋を片付け、最後にごみを所定の場所に捨てに行った。もう後はごみを出すことはできない(というか、面倒くさい)。時計とテレビをにらめっこしながら、退所時刻が来るのを待つ。


 学生時代、「海軍の5分前行動である!」と遅刻に厳しかったM教授を思い出しながら、15:10 退出準備が完了したことを確認した。テレビを消し、部屋の明かりを消して退室する。保健所からの事前情報とは異なり、ずいぶん使わないものを持ってきてしまったが、まあ、それはそれ。足の痛みも落ち着いており、問題なく歩けそうだった。エレベーターで受付に行き、部屋のカギと、パルスオキシメーターを返却し、帰宅の許可をもらう。約1週間ぶりの外の世界だ。天気予報では「寒い」と報道されていた。あるニュースでは「本日は真冬のような寒さです」と言っていたが、今が真冬なのではないか?と意地悪なことを考えてしまった。とにかく、「外は寒い」と思っていたが、いつも通りの寒さで、よかったといえばよかった。天気も良くて助かった。

 ホテル前に行列ができており、何の行列だろうと思ったら、ホテルの数軒隣にあるラーメン屋さんの行列だった。昼過ぎなのに行列ができるのはすごいな。


ホテルの目の前が駅なのだが、昔から変わった駅(昔から変わらない駅?)で、上りホームと下りホームをつなぐ通路がない。いったん改札を出て、踏切を渡らないと向こうのホームに行けない構造である。だからと言って、普段使いで困ることはないのだが、面白い構造である。ホームに入ると、目的の列車が出た後だったのか、それなりに待つことになった。15:15に退所の手続きをし、目の前に見える駅に着いたはずなのだが、目的の列車に乗ったのは15:40くらいだった。寒風の中をベンチに座って列車を待っていたのである。母方の祖父母の家の最寄り駅だったので、色々な思い出がよみがえる。


 目的の列車が来たので乗り込む。空席があったので座らせてもらう。それなりの荷物量なので、座れたのはありがたかった。子供のころからよく乗っていた路線なので、通過する駅、停車する駅の一つ一つに思い出がある。いろいろと思っているとあっという間に目的の駅に到着した。


 改札を通り、タクシー乗り場を覗くが、タクシーは一台も来ていない。この駅で待つより、歩いて10分程度のJR駅前でタクシーを拾うほうがいいだろうと思い、駅前の商店街を抜けていく。JRの駅に着くと、やはり大雪でJRのダイヤは乱れているようだった。関西の鉄道は国鉄→JR西日本となって、ネットワーク化が進み、利便性は向上したが、他の路線の、遠いところのトラブルで、全線に影響が出るのは玉に瑕だなあ、と思いながらJR駅を通り過ぎる。そしてタクシー乗り場に向かおうとすると、なんとタクシー乗り場に行くため、歩行者が駅に入るための階段が工事中で通れない。

 しょうがないのでバス停に下りる階段から遠回りをする。ラッキーなことに、こちらにはタクシーが多かった。スムーズにタクシーに乗り、目的地を告げる。タクシーでギリギリワンメーターのところに自宅があるので、申し訳ない思いになりながら、無事に帰宅した。


 帰宅してからが大変。とりあえず玄関で、洋服やカバンにアルコールを噴霧。上着を脱いでお風呂場に直行。脱衣所で服を整理。着終わった服などは洗濯機に放り込む。帰りに来ていた洋服も全部脱ぎ、洗濯機に投入。そして、持って行ったが、ホテルでは手も触れていないシャツや洋服を用意し、とりあえずシャワーに入った。全身を洗い、ついでに風呂洗いもして風呂から出る。身体を拭いたバスタオルも当然洗濯機行き。服を着替えて、ようやく家族と久しぶりの対面。しかし子供たちは将棋に夢中。まぁ、そんなもんだな。


 毎週楽しみにしている「笑点」、先週は見れなかったが、今週は見ることができた。「桂 宮治さん」やはり言葉のキャッチボールがうまい。歌丸師匠の着ておられた色の着物を着てこれから活躍されるそう。円楽師匠がいないのはつらいが、しょうがない。本当に脳梗塞なのか、肺癌の脳転移なのか、本当のところはわからない。心配である。


 久しぶりに、仏壇にお水、ご飯を備え、お勤めをする。お勤め後、父から連絡がある。COVID-19の流行は大丈夫か?と心配してくれている。そんな父の声はかすれているが、PCRも抗原検査も陰性とのこと。うーん、どうなんだろう。

 さすがに、私がCOVID-19に感染し、ホテル療養を終え、つい先ほど帰ってきたばかりだ、というと、両親が心配すると思い、「みんな元気でやっているよ」と応えることにした。少し心苦しいが、もう済んだことだと思い、真実は伝えないこととした。


 次男が入院前に「弾ける?」と聞いてきたS&Gの“The Only Living Boy in New York”、弾き語りをしてあげる。私も好きな歌で、よく歌っていたのだが、息が続かない。やはり肺活量などに影響が出ているのだろうか?

 長男はThe BEATLESの“Here Comes The Sun”を弾いてほしいと。しばらくギターから離れていたからか、指が動かない。同じcapo7thのS&G “Scaborough Fair”を弾いてみる。やはり息が続かなくてうまく歌えなくなっている。2週間前には何の苦も無く歌えていたのだが。思わぬところでCOVID-19の影響を痛感した。


その後、ほぼ2週間ぶりに家族で食卓を囲む。本当に久しぶり。夕食の後の勉強時間。次男は波に乗れない様子。長男はコツコツと勉強している。立派だなぁ、と思う。


 そんなこんなで、もう23時。就寝することにする。

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