第2話 感染当日(と推測される日)のこと

 その日は、午前の診察の担当だった。患者さんを診察していると、外来看護師さんから相談を受けた。「新規の患者さんが二人おられ、一人は咽頭痛が主訴の方、一人は消化器症状が主訴の方。COVID-19検査キットが残りわずかであり、検査をあまりしたくないのだが」とのこと。


 「『先生が検査をすべき』とおっしゃられるのであれば、しないわけではないですが…」と看護師さんは言われる。検査はしたいが、物がなければ戦えないのもまた事実。とりあえず最初の方は身体診察を行い、「COVID-19の可能性は否定できず、可能性も決して低くはないが、検査キットが足りず検査ができない状態です。検査のできる病院での検査をお願いします」と伝え、対症療法薬を処方し診察終了とした。


その方を診察後、感染対策委員に連絡、外来での状況、看護師さんとのやり取りを伝える。「自転車操業にはなるが、キットは可能な限り入手するので、検査を躊躇しないでください」と指示を受ける。後者の方は消化器症状を主訴に来院されているが、わずかに咽頭不快感も感じているとのこと。看護師さんから「どうしましょう?」と問われ、「とりあえず診察して考えます」と返答。患者さんの診察を行なった。


その時の私の格好は、ゴーグルの代わりに使っている花粉症用のプラスティックガードのついたメガネと、普通のサージカルマスク。白衣の下は、自分のカーディガン、ネクタイ、カッターシャツといういで立ちだった。というのも、外来は換気のため寒いので、長袖白衣+ケーシーでは寒くてしょうがないためである。


 患者さんを診察室に呼び込み問診を開始、前日から心窩部が重く、食欲がないとのこと。嘔気嘔吐はなく、下痢もしていないとのこと。咽頭痛はごく軽度だと。身体診察を開始し、咽頭の視診を行なおうと開口してもらい、舌圧子で舌を軽く押さえて中咽頭を観察しようとした。診察で咽頭反射が誘発されたのだろう。患者さんが「オェッ! ゴホンゴホン」と咳をしてしまい、咽頭を見ようとしていた私の顔に患者さんの飛沫が飛び散った。「しまった!やってもた!」と思ったがしょうがない。診察を続け、身体診察上は心窩部の軽度の圧痛のみだった。患者さんはCOVID-19の検査を希望しており、先ほどの感染対策委員の指示に従って、COVID-19の検査を行うことにした。


結果が出るまでの間に数人診察をして、15分ほどで結果が出た。COVID-19(+)とのことだった。「あ~~っ!」と思ったが過ぎたことはしょうがない。患者さんに結果を説明。消化器症状が強いのでそちらについては処方を行い、保健所に発生届を作成し送付。自分自身の顔を洗い、メガネを洗い、マスクを交換した。「たぶん移ったに違いない」と思い、体調を見ながら、患者さんやスタッフとの接触を減らしつつ、仕事を続けた。同日の午後は大きな仕事もなく、各階の病棟で、前日に指示した採血の結果などを確認する業務を行なった。


業務終了、帰宅後、妻に白衣から出ていた私服の部分にすぐアルコールを噴霧してもらう。帰宅後もマスクは外さず、本朝の経緯を説明。当分の間、自宅で隔離生活を行うので、仕事から帰宅後は速やかに、実質的に自室となっている仏間に籠り、食事も同部屋でとること、入浴は最後にすること。着替えはそのまま洗濯機の中に投入することを伝え、自室に閉じこもった。



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