女郎蜘蛛は見ていた~キモ子と呼ばれた少女~
花彩水奈子
第1話 修学旅行の朝
カナはショートカットで男勝りで自己主張の強いタイプだった。
サキはポニーテールで恥ずかしがりやでカナの言いなりだった。
アミは肩上に切りそろえたボブヘアで、四人の中では一番常識的だったが、自分を主張するタイプではなかった。
ユリはロングヘアーで成績優秀な委員長タイプだった。
四人はどこへ行くのも一緒で仲が良く、教室の中でも放課後もいつも固まってはおしゃべりに時間を費やしていた。
あまりにも結束力が固いので、他の女子たちは話しかけにくいと思うほどだった。
その四人組に、仲間に入りたがる子が一人……。
前髪が目にかかっていて顔もよく見せない、明後日の方向を見ながらボソボソ独り言を言うような気味の悪い子で、クラスの女子からキモ子と呼ばれて内心皆から嫌われていた。
本当はキヨ子という名前だったが、制服のポケットに忍ばせている蜘蛛を手の甲に乗せて話しかけているのを見たという噂があり、キヨ子+クモ子で、キモ子というあだ名がついた。
実際のところ、さすがに学校には蜘蛛は連れてきていないようだったが、学校が終わった後にキヨ子を見かけると、いつもペットのように手乗り蜘蛛を連れ歩いているという噂だった。
そして、修学旅行の日に事件は起きた。
当日の朝に連絡網が回り、集合時間が早くなったが、4人組のうちで連絡網がキヨ子の前後であるカナとサキが結託して、キヨ子にわざと意地悪をして遅い時間を伝えた。
連絡網で、カナの次がキヨ子だったが、30分早まったのに、30分遅くなったと伝えた。つまり、皆よりも一時間遅れである。連絡網はキヨ子が最後だったので、一番初めのサキに連絡網回りましたと連絡を入れたが、サキはカナからメールで嘘の時間をキヨ子に伝えたと聞いていたので、とっさに口裏を合わせた。
カナとサキ両方が伝えた時間だったので、キヨ子が疑うはずはなかった。ちょうど皆よりも1時間遅れで来たようだ。
先生たちの話と点呼が終わってバスに乗り込み、無断欠席のキヨ子を担任が待とうとしたが、担任は仲がいいものとばかり認識していたカナとサキが、”キヨ子は今日休むそうですよ”とウソを言ったので、信じてバスを出発させてしまった。
カナとサキはバスで隣の席に座り、ハイタッチで喜んでいた。カナとサキの後ろの席に座っていたアミとユリは、どうしたのか尋ねた。
「だって、せっかくの修学旅行なのにさ、キモ子につきまとわれて、全部の写真にあいつがカットインしてきたら嫌じゃん。」
そんなことしたら悪いな、とは思ったが、アミとユリも、その通りだなと思った。
と、窓の外を見ようとしたカナが、「ひいっつ」と短い悲鳴を上げた。
キヨ子が猛ダッシュでバスを追って来ていた。でも、運転手さんもガイドさんも担任もまだ気付いていない。
キヨ子はそのまま、車通りの激しい国道まで追いかけてきたので、その頃になるとさすがに、クラスメイト達がキヨ子に気付いて、ざわざわし始めた。
その騒ぎに担任が気づいて、
「すみません、運転手さん、止めてください!遅刻してきた生徒がいます」
その声に、ようやくバスも止まった。
すると、なんと、バスの後方、道路の真ん中を走って来ていたキヨ子が、バスと一緒に止まった瞬間、ブレーキの間に合わなかった後続車に轢かれてしまったのである。
血まみれで倒れるキヨ子。
みんなバスから顔を出して覗いている。
誰一人、怖くてバスは降りられない。
担任はしばらくしてからようやく降りて、救急車を呼んでいるようだった。
その時、窓から見ていた視力2.0のアミは、キヨ子の鞄の中から、ペットの女郎蜘蛛が這いだしてきて、彼女の体の上を這い回っているのを見た。それはまるで、別れを惜しんでいるようだった。
それから先の出来事は、目撃したアミ以外は誰も信じられないだろう。
なんと、ジョロウグモは、キヨ子のかばんからスマホを引きずり出して、引っ張っていき、そのまま側溝の穴の中へと消えていった。
「蜘蛛よ!ペットの蜘蛛がいたわ」
アミはジョロウグモがいたことについて、一部始終をカナとサキとユリに話したが、みんなは笑って本気にしてくれなかった。
キヨ子はその場で亡くなっていることが確認され、修学旅行は中止となり、クラスメイトは皆、家に帰らされた。
担任や他のクラスメイトは、”キヨ子は休みだ”と言ったカナとサキの言葉は本当なのかと疑いを持っていて、カナとサキだけ少し残され、警察に事情を聞かれたようだった。
キヨ子の母親は、連絡網で30分遅れだと連絡がきたと主張しており、警官に食い下がっていた。
でも、キヨ子が亡くなった直接の原因は、交通事故だったので、警察もそのあたりの食い違いは、調書にメモは取ったが、詳しく調べようとはしなかった。キヨ子の死の直接的な原因は、後続車の運転手が歩行者を轢いたことなのだから。
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