Vtuber ツバキとのDiscord
「どうも。
話は、聞いた。
僕も仲間だったから。一緒に練習もしたし、思うところはあるよ。
キャメル・クリスマスは良い配信者だったから、惜しいと思う。
キャメル・クリスマス。
これって、明らかにクリスマス・キャロルから来ているよね。歌のほうかなって思ったけど、たぶん、違う。あなたのレイは、マーレイってことなんだと思って。
小説のクリスマス・キャロル。守銭奴のスクルージの元へ亡霊となった昔の仲間マーレイが訪れ、過去や未来を旅して改心するお話。キャメルは英語のらくだ。らくだは役に立たないものを馬鹿にする意味でも使われるから、そこから取ったのかな。
だからさ。
あなたとキャメルは、もともと同時に、同じ人によって、ストーリィをもって作られていたんじゃないかって、そう思った。少なくとも、その設定はあったんじゃないかって。
あの日、僕はディスコードで、チームの部屋に入ったままだった。
キャメルさんも退出せず、パソコンをつけたままだったんだろうね。音が聞こえていた。マイクから離れるわけだから、鮮明とはいかないけれど、聞こえた。
レイさん、どうだったの。
あの時、もう、だったの。それとも、レイさんが。
……聞いてる?
ふ。
人って、見たいものを真実だと思い込むって、よく聞く。いかにもそれらしい言葉、自分が最初にそうだと思ったことを、考えなしに信じ込みたい。
キャメルさんって、そもそも、居たの?
聞いてます?
そりゃ、配信していたんだから誰かはいた。その誰かを問題にしているわけで。あの設定どおりじゃないにしろ、そういう、配信に適した女の子って、居たのかなって。
レイさんは男でしょ。
アバターとしてレイを作り、声を変え、女性のキャラクターを使用してVtuberとして活動した。そして、別のアバターとしてキャメル・クリスマスを作った。
レイは社会人だから朝か夜に配信。キャメルは昼か深夜に配信。
僕も知っている。
マリアどころか、配信者の誰一人、キャメルとリアルで会った人はいない。
約束をしても、必ず、寝坊して会わなくなる。
それくらいはすぐわかるよ。評判が悪くなる原因の大体がそれだったから。
そして役割を別々に与え、一方のフォローをもう一方が行う。視聴者に求められるエピソードを一方が演じ、一方が補強する。そうやって固めていったけど、人気が出過ぎた。
無理がきたんだ。
多少は騙せても、同時に出演することには物理的に無理が出てくる。かといって、急にいなくなることはできない。だから、死ななければならなかった。キャメル・クリスマスが。
そして、それを、誰かに確認させたかった。
あんなに都合よく、ディスコードを切り忘れ、パソコンを落とし忘れ、つまり、あなたは僕に、こういう推理をさせようとしたんじゃない?
は。
ははは。
無理があるよね。
ごめん。不謹慎だった。
そんな面倒なことするくらいなら、最初から二人でやった方がずっと早い。だいたい、それでコラボをするのは無理がある。相当頑張ればできなくは、いや、無理だ。
僕が盗み聞きしたとき『幸せ』って、キャメルさんは独り言を言っていた。
『幸せ、幸せ、楽しい、嬉しい、ああ、このまま死んじゃいたい』って。
でも、それって、救いがないから。
すごく幸せで、毎日が楽しくて、だからいま死ねば、幸せなまま気持ちよく死ねる。そんな感覚、理解できる? 知っての通り、叩かれたり嫌われたり、ファンからも結構えぐいことがあったりして、でも、それでも、死にたいくらい幸せって、なんなんだろう。
僕は理解できなかった。
ええ。
それがいい。
もちろん。
僕は、真実が、あるとは思っていない。
どういう意味って。
余計なことを言うよ。
そう、昔のインターネットでは、たくさんのフォークロアがあった。
比較的新しいものでもPS Homeで踊り続ける二人とか。
どうしてそこにいるのかわからない。どうしてそこにあるのかわからない。いや、あることは可能なんだろうけど、なら、それになんの意味があるのか。
ただ踊り続ける。ただただ踊り続ける。仕事にもいかず眠りもせずパソコンを一度も切らず、メンテのたびに誰よりも早く入り直して。
なぜ、そんなことを。
恐怖というのは、わからないことだって言うから。
偏在することは不可能だけど、偏在しているように見せることはできる。僕は、何の意味もなく、そんなことをする人間がいたら、それが一番怖いと思う。
思ってたんだ。『クリスマス・キャロル』の主人公は、スクルージだから。
そうなると、マーレイがメインはおかしい。
……そう。
あなたは、キャメル・クリスマスですか?」
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