【休載中】流れ星の正体はスノースマイルするラフ・メイカー。歩く幽霊は窓の中から覗いていた。

ハッピーサンタ

第1話:家出青年のハートのランプ


 今日で十八歳を迎える僕──名賀山ながやま冬邪とうやは、ネットで見つけた、おそらく東京の中では、最も家賃が低いと思われる防音機能付きのボロアパートの一室に入った。ポケットの中身は、スマホと財布、先程大家さんに貰った部屋の鍵。他の荷物はと言うと、背中に背負っているアコギの入ったギターケースだけ。


 つい先程、引っ越して来た人間とは到底思えない超身軽な状態だ。


 これは、家具などの生活必需品などを、引っ越し業者さんが部屋に運び入れてくれたから、こんな身軽な状態で来られた訳じゃない。


 いつまでもこの部屋の状況について、焦らしておくのもアレなんではっきり言おう。


 今、この部屋には、スマホと財布、後ろで背負っている愛用のアコースティックギター以外、──。



 ●○●




 僕は昔から内向的な性格で、自分で何かをするために行動することも、他人にものを言うことも、怖くて全く出来なかった。


 そんな僕だから、学校などという社会に出ても、小・中・高と誰とも馴染むことが出来ず、その結果いじめを受けたり、理不尽なことを散々言われまくったりした。


 だから僕はそれが嫌で、勇気を持って両親に学校を辞めたいと、言うことにしてみた。


 しかし、その結果もまた、期待していたものにはならなかった。


 母親は「辞めるメリットがない」と言って溜め息を付き、父親に限っては「お前の弱さが全て悪い」とボロクソに言った挙げ句、暴力で押さえつけられることとなった。


 結局、勇気を振り絞ったところで、結局のところはどうにもならないということを悟った僕は、その日の夜、自殺を図ることにした。


 ──でも、それは出来なかった。


 僕を救ってくれた存在がいたからだ。


 味方も、助けてくれる友達も、尊敬する大人も、誰も僕の前には、現れなかったのに、だけは、姿を見せてくれた。


『──壊れてしまったその心が悲しいって、叫んでいるのは、また笑うことが出来るから』


 そんな声が、僕の鼓膜を超えて全身に伝わってくる。


 ──そう、これは紛れもない音楽の力だった。


 LAMP OFF KITCHENランプ オフ キッチン『Fire』……。


 誰も居なくなったリビングのテレビから急に流れ出したそれに、僕はいつしか死のうとしていたことすらも忘れて、釘付けになってそれを演奏している四人組のバンドを、ただじっと眺めていた。


『──ここにいたんだよ。ずっと、しっかりと』


 僕はこの日から、ランプ(※ LAMP OFF KITCHENの略称)の楽曲を聴くようになり、こっそりバイト(僕の学校はバイト禁止)したお金でギターを買って、カバーもするようになった。


 毎日、ランプを聴いているうちに、辛いことがあっても乗り越えられたり、勇気を振り絞って行動したりすることが、僅かばかりだが出来るようになっていた。


 そして、それから一年程が経った十七歳、高校三年生の夏、進路決めの三者面談──。


 カバーだけでなく、自分で曲を作ってネットに上げてた僕の夢は、当然決まっていた。


 だが、僕のいる学校は進学校。大学に行く選択肢以外は白い目で見られ、夢を打ち壊されるのは、間違いない。


 むやみやたらに、勇気を振り絞って自分の夢を言ったところで、却下される。


 ならば、勇気を持って、


 だから、僕は担任の教師と両親の前でこう叫んで、


「僕は絶対に、ランプみたいに誰かを死の底から救えるアーティストになる!!」


 これは実を言うと、ちょっと前から準備していた計画的犯行だった。


 僕はバイトで思ったよりもかなり稼げていたため、親に内緒で、親が用意した口座とは別の口座を作ってそこに貯金をしていたのだ。


 そのため、のチケットを買うお金は余裕であった。


 僕は三者面談の一週間前には、新幹線のチケットを手に入れていた。


 問題は新居の方だが、貯金もそれなりにあるし、向こうでバイトを見つければ、家賃が格安なとこらに住めるはずだ。


 一応、住居が見つかるまでは、ネットカフェとかで過ごせば良い。


 そう考えた僕は、今日のこの計画を企てた。


 こうして無事、両親と担任との逃げかくれんぼの末に、どうにかこうにか新幹線乗り場にたどり着き、僕の逃亡計画は成功したのだ。


 そして、東京に着いた僕はネットカフェで一日目を、新居を探しながら過ごし、すぐに最安値の防音機能付きのアパートを見つけ、二日目の夕方には親からパクってきた身分証を使って、契約を結ぶことができた。


 はっきり言って、こんなにトントン拍子で、スムーズに契約出来るとは思っていなかった。


 正直、大家さんや契約を結ぶ大人の人などから、僕の素性を少しくらいは疑われるのではないかなどと思っていた。しかし実際は、一般の大人相手と同じような対応の仕方で、家賃さえ払えば、それで良いといった感じのようだった。


 流石に、こんな簡単に、契約出来るのは事故物件だけかと思っていた。


 いや、まさか僕がこれから住むところは事故物件なわけ……。


 うん、なんかフラグっぽいから、これ以上は深く考えないでおこう……。


 でも、今は事故物件がなんだろうが、住む場所を手に入れなければならなかったので、良かった。


 こうして、東京に来てから、僅か二日目の夜には新居を手に入れることができ、今に至る。


 そろそろ、親も警察に捜索届けを出した頃かな……。


 家出した日から合わせて、十回以上も親から電話が鳴ってきているが、今さらになって出てやるつもりは毛頭ない。


 彼らは、僕が勇気を持って行動に出た時、味方にならず、自分の敵となる道を選んだのだから。


 まさか東京まで逃げて来たとは、まだ親も警察も気付いていないはず。


 だが、おそらく見つかってしまうのも時間の問題だ。


 それにバイト先や、音楽活動(曲を作ってネットに上げたり、路上ライブしたりetc.)も、まだ全然出来ていない。


 とにかく、なんとかしなくちゃな……。


 まぁ、今日は住居を手に入れるため、精一杯頑張ったのだから、新しい部屋でぐっすりと寝て良いだろう。


 布団も枕も、毛布もないけど……。


 流石に、生活必需品を持ち出すのは、家出を怪しまれるため、出来なかった。


 まぁ、それはともかく、寝る前に一つだけしておきたいことがある。それは──、


 ……一応、夜だけどお隣さんに、せめて引っ越しのご挨拶くらいはしておこうかな。まだ七時半だから、起きてるだろうし。


 ──そう、お隣さんへの引っ越しのご挨拶だ。一応、隣人付き合いの少ない現代の東京とはいえ、それくらいはやらなくては……僕、見ての通りコミュ障ですが'`,、('∀`) '`,、。


 部屋の明かりも、隣の扉から漏れていたので、おそらく起きているだろう。


 本当は明日の朝に挨拶しても良いが、自分の性格的にこういうのは、早く終わらせてしまいたい。


 僕はこうして、アパートのお隣さんの部屋に向かうことにしたのだ。








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 ◇作者の後書きとお願い♪


(※次話以降、基本的に『作者の後書きとお願い♪』のコーナーはございません。)


 一話でヒロインをお出し出来なくて、大変申し訳ない。

 ですが、二話から超絶可愛い清楚可憐な美少女が登場しますので、ご了承下さい。(ヒロインの描写は特に拘っております!!)


 感想をいただけると大変励みになりますので、そちらの方もよろしくお願い致します!(※第三者の方が読んで、不快になるような発言等はしないようにお願いします)


 ※作中に出てくるバンド『LAMP OFF KITCHEN』はBUMP OF CHICKENさまをモデルとしており、各話タイトルに楽曲名や歌詞の一部を引用させていただいております。

 この作品には度々、『LAMP OFF KITCHEN』(略称:ランプ)が登場してくる描写が出てきます。先程も述べさせていただいた通り、これはBUMP OF CHICKENさまをオマージュしたものです。決してアンチ活動目的のものではございませんので、ファンの方はご理解の程、宜しくお願いし致します。

 もし、ご不快だとご指摘いただいた場合や、著作権に引っかかった場合は変更する可能性があるのでご了承下さい。

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 ※1話タイトル『君のハートに住む情熱のランプ』

 引用元:楽曲名『ランプ』(アルバム:THE LIVING DEAD)


 素敵な楽曲なので聴いていただけると嬉しいです。

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