【短編】三番目に出てくるヒロインが絶対に勝つラブコメ

一終一(にのまえしゅういち)

前編 ヒロインレース開幕

 真っ暗な空間で清楚せいそ系黒髪女子高生“カツユ”が目を覚ました。


「あれ、ここはどこですか?」


「ちょっと、カツユだっけ!? アンタね! こんなとこに閉じ込めてどうするつもり!? 早く出しなさいよ!」


 ツンデレ系金髪女子高生“乃蛙のあ”がカツユにつかみかかる。


「え、し、知らないですよ! ノアさん、落ち着いてください! 私じゃありません!」


「——静かにせぬか」


 突然、頭上から低い声が掛かる。


「ワシは神じゃ」


 脈絡のない自己紹介にカツユとノアの目が点になる。


「……えっと、とりあえず通報すべきでしょうか?」


「そうね。神とか名乗るやからにロクな奴は居ないだろうし」


 二人の女子高生はスマホを取り出そうと制服をまさぐる。


「無駄じゃ。お主らの体を隅から隅まで調べてスマホを取り上げておるからの。ぐふふ」


「おまわりさーん! この変態を逮捕してー!」


「っせーなぁ。あーしの睡眠を邪魔すんじゃねぇ」


 騒がしくしていると、最後のヒロインであるギャル系茶髪女子高生“ヘビコ”が起き上がった。オタクにも優しいギャルである。漫画好き。


「ふむ、全員起きたようじゃの。突然じゃが、お主らには“ヒロインレース”を行ってもらう」


「あーん? なんだそれ?」


 ヘビコがネイルを見ながら気怠けだるげに言った。


「ワシ、最近ラブコメ漫画にハマっておるんじゃが、どれもこれも結末に納得いっておらんくての」


「知らねぇよ」


「ワシが好きになるヒロインは三番目以降に登場する主人公に積極的なお色気キャラか、あるいは変な語尾のイロモノキャラなんじゃよ。人化する人外なら完璧じゃな」


「あるあるだな。二巻以降に出る女キャラにほぼ勝ち目ねーよな」


 漫画好きのギャル、ヘビコが若干食いついた。


「うむ。悲しいことに、それらのヒロインが出る頃には、先に出たダブルヒロインと主人公の関係性は盤石のものとなっており、付け入る隙がない。仕方なく積極性を活かしたオッパイアタックで距離を縮めようとするが、読者サービスの域を出ず、場を引っ掻き回すだけの悲しきピエロでしかないんじゃ」


 ヘビコはウンウンと頷く。他の二人は白けた目で話を聞いている。


「そして終盤には雑にフラれて友人ポジションに成り下がり、泣きながら笑顔を浮かべて主人公の幸せを祈ってジ・エンドじゃ。当然、その漫画のアンチと化したワシは、最後に星1レビューを付けるのが慣例となっておる」


「それはやり過ぎな。作者に謝れ。訴えられろ」


「ともかく、ワシは三番目のヒロインを勝たせたい。そこで三人以上の女子と懇意こんいになる男を探し、見つけたのがお主たちじゃ」


「……それで相手の男性というのは?」


 一人興味のわいた清楚系カツユが発言した。


「うむ、これがお主らの男“キーくん”じゃ」


 前方に映像が映し出される。そこには、カッコよくもなく、ブサイクでもない普通の顔の男子高校生が映っていた。卒業アルバムに載っていたらネタにもならずにスルーされるだろう。


 そんなどこにでもいる普通の男にも関わらず、三人の女子は目を見開いて驚く。が、すぐに真顔に戻った。


「あ、あーコイツね、冴えない男よね」


「だ、だよな。明るい奴にもオタクにもなりきれないよくいる半端ものだろ?」


 ツンデレのノアと、ギャルのヘビコがよそよそしい態度で興味のないオーラを演出している。明らかに好きな男子に対する反応であった。


「そもそも好きでもない男に出会った順番だけでくっ付けられるとかたまったもんじゃないわ」


「そーだそーだ、あーしらの気持ちも考えろ。もっと良い男用意しろってんだ」


 ツンデレとギャルが共感し合う中、清楚系カツユが手を上げた。


「あ、じゃあ私の勝ちでいいですか?」

「え?」

「は?」


「私、キーくんと幼馴染みなんですけど、彼って優しくて、いざとなったら頼りになって、正直言うと、私、彼のこと好きなんです。お二人が身を引くなら良いですよね?」


「ちょ、ちょっと待ったぁ! や、やっぱ、あーしも好きだったわ! あいつ結構いい奴だしさー、話も合うし一緒にいて楽しいんだよな!」


「ず、ズルいわよ! あたしだって、本当は話したことあるし、一緒にいるとムカつくけど、それなりに楽しいし、その……えっと、だから、す、スキ……なの。ごにょごにょ」


 二人の手のひら返しにカツユが半眼で見る。


「はぁ、後出しですか。神様、これって反則じゃないですか?」


「うっせぇなぁ、そっちこそ後出しだろ。あーしらの反応見てから告白しやがって。この腹黒女が!」


「そーよそーよ! 清楚っぽい見た目してるけど、どうせビッチなんでしょ?」


「はぁぁ? 動物のフンみたいな髪色の人達に言われたくないですね!」

「んだぁてめぇ!」

「何ですって!」


 ぶーぶーうるさい三人に神様は大きくため息を吐いた。


「うるさいのじゃ! とにかく三番目にキーくんに出会った者が勝利じゃ! それじゃあスタートなのじゃ!」


「えっ、ちょ」


 返事を待つ間もなく、三人は光の彼方に消え去った。

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