聖騎士様の初恋傷は治らない
紗音。
プロローグ
息が白くなるほど、外はとても寒い。冬だと言うのに、私は
こんな日は家の中で、
「……もしもし⁇」
今にも寝落ちしそうなか細い声が聞こえてくる。なにせ家を出るときは、夜中の二時を過ぎていた。普段の友人なら、もう寝ているだろう。しかし、今日だけは違うのだ。私からかかってくる電話を心待ちにしていた友人は、眠気に負けないよう必死に起きていたのだ。
「もしもし!!ヤバい!!ヤバいよ!!!!」
私は興奮して大声を出してしまったので、慌てて口を押さえた。夜中に家で
それにこんな寒い日ならば、公園には誰もいないだろう。私は歩みを速めて、公園に向かう。
「えっ⁇やばいって、どうだったの⁇」
「もー本当に王子がイケメン過ぎて、涙しか出なかったよー!!」
そう言うと、友人は笑っていた。友人から、王子の容姿は私の好みド直球だと前もって教えられていた。そのため、今日という日を心待ちにしていた。結果、本当にド直球だったのだ。
「で、他はどうだった⁇」
「えっ⁇王子ルートしかやってないけど⁇」
私はとぼけた様に言うと、友人は
王子とは、友人が書いた小説の登場人物のことだ。友人が高校時代に書いていた小説が時を経て人気となり、この
高校時代に、私もこの小説の設定やアイデアに口出ししていた。だから、ゲームのクオリティ確認に適任と考えたようで、友人は私にテストプレイさせたのだ。
「うそうそ、ちゃんとやったし。他のルートも良かったよ。やっぱりキャラが動くのと動かないのじゃあ全然違うね!!苦手だったキャラにも愛着
「えぇっ⁉なになに⁇」
慌てた声で騒ぐ友人を鼻で笑って言った。
「主人公のデフォルト名、あんたの名前とか
「……あぁっ。いいーじゃん、夢くらい見させてよー」
元々小説では、主人公の名前については書かれていなかった。読者すべてが主人公になれるように……という友人ならではの考えだ。だからと言って、主人公のデフォルト名を自分の名前に設定するのは違うだろう。しかも、デフォルトだけボイス付きで呼ばれるとか、誰得なのだと言う話だ。
「まぁ、王子には『姫』と呼ばれてるから全然良いんだけどね」
そう言って私は高らかに笑った。それと同時に公園に着いたのだ。公園に入って、私はベンチに腰を下ろした。辺りを確認するが、人っ子一人いない。安心した私は、大きな声で話し始めた。
「あー、もうこんな時間か」
「えっ⁇」
友人の言葉に、私は公園内にある時計を確認した。時計の針は四時を過ぎていた。四時を過ぎると、そろそろ親が起きてしまう。夜中に外に出ていたとバレたら、大目玉を
「やっば!!ダッシュで帰らなきゃ!!」
「テストプレイ、ありがとね。担当者に伝えとくわ」
この後も仕事なのかと思うと、こんな時間まで話をしていたことが申し訳なく思ってしまう。
「なんかごめんね、こんなじ……」
友人に謝ろうとした時だった。グサッと言う音とともに身体が前に押された感じがしたのだ。胸元に何か違和感を感じて視線を下げると、
「えっ……⁇」
その瞬間、勢いよく背中を
そう、私は誰かに刺されたようだ。刺されたとわかった
痛みが少し
こうして、私の人生は幕を閉じたのだ。
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