高層ビルのカフェで、おっさんにチェキを迫られていた牛チチメイドを助けたらヘラった。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

助けた牛に迫られて

「いやああ、近寄らないで」

「いいじゃんかぁ。ふしゅううう」

 

 鼻息を荒くしながら、バーコードのおっさんが牛チチメイドにチェキを迫っている。


「ボクちゃんがチミの胸の谷間を寄せて、チェキ撮ろうって言っているだけだろ? お客さんのいうことは、聞かなきゃダメなんだぞぉ」


 酔っているな。随分と酒臭い。


「帰ってください! そんな写真、撮りたくない!」


「反抗的な態度だなぁ。店に言いつけてやるぞぉ。店にいられなくしてやるぞぉ」

 


 最近多いな。立場が弱い相手を狙って好き放題するヤロウって。

 

 しょうがねえな。

 


「おいやめろ、おっさん。警察呼ぶぞ」


 見るに耐えかねたオレは、おっさんを牛チチから遠ざける。


 牛チチは「クロ」というらしい。

 

「んだこのやろおお。ふしゅううう。ボクが誰だか、わかってんのかああああ?」


「知らねえよ。つうか勤め先に報告するぞ」


「やってみろよぉお。ボクはなぁ、ここのオーナーと知り合いなんだぞぉ。このビルにある会社の部長だってやってるんだ。ボクが声をかけたら、従業員の一人や二人くらい、吹っ飛ぶんだからなあああ。立場が悪くなるのは、お前も同じなんだからなぁ」


「そうか。ここのオーナーと知り合いか」


 オレは、スマホを取り出す。

 

「なんだぁ?」


「ああ、わかった。すぐ連れてこい」


 スマホをポケットにしまう。


 このビルの役員がゾロゾロゾロ! と集まってきた。


「な、なんだなんだ。どうして我が社の役員がめっちゃ集まって」


 男性は、何が起こったのかわかっていないらしい。

 誰を怒らせたのかも。


「またお前か! どれだけ迷惑かけたら気が済むんだお前は!」


 白髪の男性が現れ、怒鳴り散らす。

 

「そうですよ、社長ぉ。このガキったら、ひどいんですよぉ」 

「ひどいのはお前だと言ってるんだ、部長!」


 社長と呼ばれた白髪の紳士が、バーコードを叱り飛ばす。

 

「えええええっ! 社長おおおおお!? こんなヤツの肩を持つんですかぁ?」

「こんなやつとは無礼な! この方はな、このビルのオーナーだよ! 我が社の筆頭株主でもある」

「ええええええ!?」

 

 信じられないという表情で、部長らしきオトコは縮こまる。


「オーナー、この度はまことに申し訳ありません! きつく言いつけておきますので」

「ご勘弁を!」


 部長も酔いが冷めたのか、アスファルトに額をこすりつけた。


「謝る人間が違うだろ! オレよりこの子に謝れ!」


「お嬢さん、申し訳ありません!」


 社長と部長が、牛チチメイドに頭を下げる。


「いいいえいえいえ! そこまでしていただくわけには。泥酔していない状態でしたら大歓迎ですので、またお越しくださいね!」


「はひいいいい! ぶひいいい!」


 ここは、プロ根性といったところか。

 牛チチメイドのクロは、相手を邪険にせず応対した。

 こんなヤツ、「お前は客じゃねえ」って突っぱねたほうがいいのに。


 処分するために、役員たちは部長を会社へと連れて行く。


「まったく、コーヒーが冷めた。おかわり」

「はっはい!」


 オレにカップを差し出され、クロが慌てて応対する。


 クロが戻ってくると、オレのコーヒーはウィンナ・コーヒーになっていた。

 クッキーのおまけまで付いている。



「おい、こんなの頼んでないぞ」

「サービスです!」


 クロなりの感謝らしい。

 

「あああの、オーナーは、これからご帰宅でしょうか?」

「そうだな。夜も遅いから、はやく帰らないとワイフが気になる」

「わわわわいふ」


 愕然、という表情で、クロの目がうつろになっていく。


「ワイフ。奥さんがいる。わたしはどうがんばっても愛人関係にしか……」


 なんか、ブツブツと独り言をつぶやいている。

 

「どうかしたか?」

「いえ。愛人契約ならいつでもと思いまして」

「いらん」


 ワイフを裏切るわけにはいかん。


「奥様がいらっしゃるんですよね? ワイフ様は生身なのでしょーか。それとも二次元の方で」

「いやいや失礼だなキミは。ちゃんと生身の肉体を持った大人の女性だよ」


 オレは、やんわりとツッコミを入れた。

 胸は、圧倒的に負けてはいるが、女性の魅力なんて胸だけで決まらないよな。


「そんな。ではもうこの高層ビルから飛び降りるしか」

「待て待て。早まるんじゃないよ。キミは魅力的だから、オレなんかよりすばらしい男性に巡り会えるはずだ」

「そうでしょうか? オトコはみんな、クソみたいなのばっかりでした。イチモツをこの胸に挟むことしか考えていない単細胞ばかり。あなただけなんです。わたしを外見で判断しなかったのは」


 まあ、そうだろう。

 女性の武器ではあるが、クロにとっては枷にしかならなかったようだ。

 

「キミに良き出会いがないのは、環境のせいだ。乳房だけアピールするのではなく、もっと学習して自分に見合った職場に身をおいてはどうだろう? 学ぶ気があるなら、手配するぞ」

「では、あなたの秘書に立候補します」

「すまん。さっき話したワイフが秘書なんだ」

「先立つ不幸をお許しください」

「待て待て!」


 もう、どないせえいうねん。

 

 ワイフの部下にしようにも、出し抜いてオレの愛人になりそうだ。


 このヘラ女をどうにかせんと、帰れそうにない。


 何人かの子どもが、クロにチェキを迫っていた。


「あ、はいはい。ごめんなさいね。一緒に撮ろうね」


 パシャっと、すばらしい笑顔でチェキをこなしているではないか。


「これだ!」


 数日後、オレはクロを「子ども連れメインのカフェ」へ転職させた。


「ありがとうございます。おかげで、毎日が充実しています。もうなんとお礼をいっていいか」

「礼なんていらん。当然のことをしたまでだ。他に困ったことがあったら言えばいい」

「困りごとなんて何も。感謝ばかりです」

 

 クロはなんども頭を下げる。


「欲しいものはないのか?」

「あなたの子どもです」


 まだヘラってやがった……。

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高層ビルのカフェで、おっさんにチェキを迫られていた牛チチメイドを助けたらヘラった。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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