親友
それから数時間が経った頃、僕は暗い路地裏にいた。何匹かの野良猫が威嚇してきたが、僕は気にせずそこに足を踏み入れた。
先ほどから携帯の震えが止まらない。きっと愛里だろう。あの子のことだ、僕のことを本気で心配しているに違いない。でも、その気持ちにはもう…。
「よう、親友。」
僕は思わず身震いした。こんな路地裏に、どうして…。
「お、その顔はなんでここがわかったかって感じだな。おうおう、あんま親友なめるなよ?」
首を横に振って、きっと僕は君の知る親友ではないと、そう答える。
「そう来たか、だが、残念ながらそれは間違いだ。お前がどう思おうと、俺はお前の親友だし、それは愛里ちゃんも一緒だ。」
愛里、という名前が心に刺さる。
「愛里ちゃん、すげー悲しんでだぞ。お前に嫌われたって、もうこれ以上大切なものを失いたくないって。なにがあったか知らないけど、もう一回ちゃんと話してこいよ。」
僕は再び首を横に振る。
「いつになく強情だな。でもお前だってわかってるはずだ、自分が愛里ちゃんをどう思っているか。」
人間になってからの数か月、僕はずっと愛里を見てきた。だからわかってる、でも…!
「それでも、僕は愛里の前にはもう出られない…。」
涙を浮かべながらもそう言い切ると、僕は思わず顔を背ける。
だが、次の瞬間、僕は水根に胸倉をつかまれた。
「お前は、愛里ちゃんのことが嫌いになったのか!どうなんだ、答えろ!」
水根のその目を見て、僕の視界は更に滲んだ。
感情が爆発したように湧き上がる。愛里への憎しみを、悲しみを、愛を、想いを、自分の気持ちの全てを、僕は実感する。
「嫌いになんて、なれるわけないだろ…!過去に何があっても、たとえそれを許すことができなくても、僕は彼女が大好きだ…。」
涙が一粒、また一粒と地面を叩く。そうすると、水根はそっと手を放して、今度は僕の両肩を掴んだ。
「それでこそ俺の親友だ。その想い、一つ残らず彼女に伝えてこい。それで全部終わる。よし、帰るぞ。」
終わる、という意味だけが、今の僕にはなぜだが理解できた。
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