七月、某路地裏にて

白銀 来季

某路地裏にて

 ある町はずれの路地裏、そこで繰り返される、弱肉強食の熾烈な生存競争。それは、この場に生きる者にとっては避けて通ることのできない宿命だ。


 そんな殺伐とした場所で、一際その眼光を光らせる者が一人。彼の名は、もうない。その記憶に刻み込まれているのは、急変した人間の激しい剣幕と、自分を棄てた人間のこちらを憐れむかのような涙、そして、それらに対して抱いた憎しみだけだ。


 彼は、血走った目で前方の敵へ向かう。野生動物は本来、生死を伴う激しい衝突を避けようとする。だが、彼は違った。それがなぜなのかは、彼にもわからない。


 一つの影がじりじりと詰め寄っていくと、敵は血相をかいたように正面の壁を登り始めた。彼もそれに気づくと、すぐに後を追い始める。


 民家やビルのパイプを避けながら、路地から路地へ。彼らは巧みに障害物を避けて、すごい勢いで前進する。一方は生き残るために、また一方は獲物を逃さぬように。 


 次の瞬間、世界が大きく開けた時、一際眩しいライトが彼の身体を照らした。


 …。


 その、大きすぎる金属の塊は、彼の身体を吹き飛ばすのには充分すぎた。


 鈍い音と共にほんの一瞬だけ宙を舞った影は、すぐさま夜の帳に溶けて消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る