壊れた朝

阿紋

 焼けついた土はすっかり干からびてしまって、ひび割れてボロボロになっている。ずっと先まで草の生えていない土地がつづく。誰が何の目的で、こんなところに小屋を建てたのか。たまに風が吹くと土埃が少しだけ立つ。日差しが大地に容赦なく照りつけ、熱気が小屋の中でよどんでいる。振り返ると、備え付けの棚にすわったまま、うんざりとした目で僕を見ている女の子と目が合う。

 僕はタバコに火をつけた。

「タバコ吸わないでよ。見てるだけで暑い」女の子が言う。

「そうか」僕はタバコの煙を吐きだしたあと、ゆっくりとそう言う。

「お茶でも飲むか。熱いやつ」

「冷たいのがいいよ。それに、ここでお湯沸かさないで」

 女の子は床に置いてある携帯用コンロを見ている。

「ねえ、これ冬の歌だよね」

 ラジカセから流れているはっぴいえんどの「かくれんぼ」。そういえば、はっぴいえんどって冬の歌が多いかな。

「十二月の雨の日」とか「春よ来い」とか。僕は冬の寒い日に、どっぷりと風呂につかっている自分を想像している。

 女の子は何を考えているのだろ。ぼんやりとした目で僕を見ている。僕は小屋を出て裏側にある井戸のほうに向かった。そして、井戸に吊るしてあるロープをゆっくり引き上げる。暗闇の中からぼんやりと見えてくる竹のカゴ。僕はそのカゴを引き上げて、中からジンジャエールとビールを取り出した。取り出したビンを井戸のフチに置いて、カゴをまた暗闇の中にゆっくりとおろしていく。しばらくすると、水の音がした。ビンを抱えて僕は小屋の中に戻っていく。よく冷えている。

 僕はジンジャエールのビンを女の子に渡す。

「なんだ、あるんじゃない」そういったまま女の子はビンをじっと見ている。

「廻せばいいんだよ」

 僕はそう言うと、持っていたビールの栓を廻す。シュッと音がして、ビンの口から泡があふれ出す。

「あいた」女の子の声が小屋の中に響く。

 そしてジンジャエールを一口飲んだ。

「辛いね。ちょっと」

「生姜だからね」

「そうか」女の子はそう言ってまた一口ジンジャエールを飲む。僕はあっという間にビールを飲み干した。

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