能力者戦争〜我が部隊の最強兵器〜

永井佑暉

第1話 戦争

アメリカの残酷非道の大将

平和に暮らしている人々の裏では戦争が行われ、多くの人の命が奪われている。戦っている軍人だけではない。平和に住んでいた場所が戦場と化し、巻き込まれ亡くなる民間人もいるのだ。

戦争だけではなく、デモや人種差別のよるもので命を落とす者もいる。

さて、ここでは戦争について世界が大きく動いたことを書こうではないか。

皆、思うことはないか?

なぜ戦争はなくならないのか?‥‥と。

戦争がおこる理由は、国境・領土や資源をめぐる戦争、宗教や民族観をめぐる紛争、統治をめぐる戦争、政策への反発から生まれた戦争、自衛のための戦争、自暴自棄の戦争、代理や支援としての戦争、過去の恨みをめぐる戦争、正義の戦争という様々な理由だ。


そして我々は今、国境・領土や資源をめぐる戦争が行われている。それも世界中でだ。

どこの国が最初に戦争を始めたのか‥‥そんなことはもう忘れてしまった。それほど混在する戦争なのだ。

当初、世界中の長たちはこう言っていた。

「我が国の武力を最大限活用すれば勝利は簡単だ」と‥‥しかしそれもまでだった。

理由は簡単だ。世界中が敵となると国は鎖国状態となる。自国だけで軍事兵器を製造しなくてはならない。輸入、輸出で兵器製造を繋いでいた国にとって、一からの兵器製造は困難なものだった。

国から優秀な人材を集め、何とか現状状態の兵器を完成させた国もあれば、殺傷能力が高い新型兵器を開発し戦場で使用していた国もあった。

国の発展も様々で、大きく発展した国もあれば、現状維持がやっとの国、貧困が増してしまった国などがあった。その差は歴然だった。

そんな兵器による差はあった。しかし戦争で最も必要な人材にはどの国も困らなかった。

軍人として戦争に参加する志願者が多かったためだ。軍人となって皆そろって言っていたことがあった。「祖国のために戦えることができれば本望だ」と。

強制せずに人材を集められたことは良いことだった。あまり強制を言い、若者を戦場に行かせれば国内でデモが発生する可能性もあったからだ。

多くの人材をそろえることのできた国の長はあらゆる国に軍を派遣した。

皆、我が国の勝利のために。



しかしそう簡単な戦争ではなかった。

なんと戦争開始から30年が経過していた。戦況は安定するかと思われたが、状況は悪化の一途をたどっていた。



——2099年——

——アメリカ合衆国国境——

「敵軍が攻めてくるぞ!増援はまだなのか!?」

アメリカ北部にカナダ軍が侵攻してきていた。

この戦場も30年で更地をなってしまった。戦争が開始されるまではここは大きな畑があり、小さな集落があった。

しかし現在はそんな面影はなく戦車が進行し、弾が飛びかい、戦車の砲弾は地に大きくくぼみをつくり、兵士を殺戮していった。

砲弾だけではない銃弾や爆弾までもが飛び交っている。

被弾してしまった者は戦意を喪失し、地面に転がっている。

「うわぁぁぁぁ」

「う、腕が!腕があぁ!」

負傷した者を運び出そうとするが、銃を持っていないものは格好の的だ。二度と起き上がれないように何発も体に撃ち込んだ。

「攻撃を怠るな。やらなければ、こちら側がやられるぞ!」

アメリカも負けずと攻撃を仕掛ける。優秀な人材を集め開発を行ったため、新型兵器が誕生した。そのため北側国境は有利に働いている。

このまま率先して攻撃を仕掛け進軍を開始したいが、北側からカナダ軍、南側にメキシコ軍、東側にはフランス軍、西側に日本軍が攻撃を仕掛けているため攻撃を防がなくてはならない。

他国を治めることができたとしても祖国が他国に支配されては元も子もない。攻撃だけではだめなのだ。国の防衛もできなければならない。

30年も行われている戦争。

終わりの見えない戦争に誰もが絶望感でいっぱいだった。

「あぁ。神よ。我々祖国に勝利を‥‥」

神に願いながら死んでいく者も多い。

怪我を負い、疲れ果てる。進行、攻撃、防衛。

神に願わなければ心が崩壊してしまう。‥‥心が崩壊し自ら命を絶つものも少なくはなかった。

しかし今思うと断言できる‥‥神はいないと‥‥神は‥‥存在しないと‥‥。

神が存在していたら戦争なんてまずおきることはないだろう。‥‥おきないはずだ‥‥。

この世はなんて残酷なのだろうか?



アメリカ中央部コロラド州に設置された軍事施設アレス基地。

臨時に設置された施設だが、建物は1階建てで大きく頑丈に鉄筋コンクリートで建てられている。装飾に入口の両側にアメリカの旗が掲げられている。コンクリートの柱には勝利の神とされているニーケー像が装飾されている。

アレス基地の一室は現代よりは昔年な部屋だ。高級な絨毯が床一面にひかれ、天井にはきれいで大きなシャンデリア、今では珍しい暖炉まである。木製のテーブルには紙製の世界地図が置かれ、国旗が描かれた駒が現在の進行状況を表している。他に人数分の水の注がれたワイングラス、端には季節花が飾られていた。

ここでは10人の指揮官(大将2人、准将3人、大佐1人、中佐4人)が現在、アメリカの戦争状況を確認していた。

ここにいる10人が大統領の命を受け、アメリカ全軍を指揮する指揮官たちである。

しかし指揮官たちに焦りや沈鬱な面持ちをしている。

現在アメリカは苦悩な状況に陥っているからだ。

進行、攻撃、防衛を繰り返していくにつれ負傷、戦死する軍人が増加し、四方八方から敵国の攻撃を受けている。

「メキシコ軍による進行で南側の国境防衛壁が突破寸前です」

北側は有利に動いているが、南側であるメキシコ軍も新型の軍事ヘリのよる攻撃でアメリカ国境突破寸前だった。

「何とかならないのか!?」

「こちらも軍用ヘリを送れ!」

指揮官たちの怒鳴り声がこの部屋に響き渡る。

「も、もうすでにヘリに備えている弾の備蓄は底をついています」

それに最も恐れていたことがおこってしまっていた。

30年もの終わらない戦争を続けていたため、ついに軍事資源が底をつき始めたのだ。

「どうにかならないのか!?」

指揮官大将の1人は思い切り机を叩いた。

グラスに入った水が零れなかったが、大きく揺れている。駒もいくつか倒れ、大将の焦りと怒りが伝わってくる。

「し、しかし、どの国も人員や資源の限界だと思われます。観測班からの情報では中国やロシアの軍は退行していると‥‥」

「‥‥我々も退行してはどうでしょう?または少し余裕のある北側の軍に援護してもらう案もありますが‥‥」

「難しいだろう。無理に人員や兵器を分散させると、変に敵国に気を取られたくない。中国やロシアはともかくメキシコやフランス、日本はいまだに進軍を続けている。それにすでに南側だけでなくすべての戦場において人手不足だ」

そう最前線にいてなおかつ生存しているアメリカ軍の兵士はすでに30%未満となっている。

このまま戦争を続ければ確実にアメリカの勝算は厳しいものだろう。しかし大将の2人はその人員不足を解消させることのできる策を持っていた。

「‥‥‥あれを‥‥使うのか?」

大将の1人が苦い顔をして同期であり同僚の男の顔を見た。人員不足を解消できるのになぜこの大将はこんなにも、この策を使いたくないような顔をしているのだろうか?

そんな同僚とは裏腹にもう1人の大将は余裕の顔でタバコをふかしていた。

男の名はクーパー・キャンベル。中央区軍事施設アレス基地の大将である。

クーパーは他国からだけではなく、同期及び同僚、部下からも恐れられている。理由は捕虜となった敵国の軍人を自ら拷問を行い死ぬ寸前まで痛めつけ情報を集めている。クーパーの恐ろしさはそれだけではない。自分の命令を聞かない者は誰であろうと暴力を振り、酷い時には殺害してしまうのだ。そのためクーパーにはこんな異名があった。

その異名は“残酷非道の大将”。

なぜ大統領は、軍はこんな危険な男を大将のままでいさせるのか?普通では許される行為ではない解雇処分が妥当のはずだ。ではなぜ解雇にならないのか?

その答えは軍服に語られている。指揮官専用軍服を着用し、勲章のバッチを多く備え付けていた。名誉勲章、国防省勲章、戦功章など多様だ。

髪はきれいにワックスで整いてあり茶髪だが白髪が目立つ。さすが残酷非道の大将といわれるだけのある赤く鋭い目つきに口髭をたくわえている。なぜかクーパーの左親指と左人差し指がなかった。常にタバコを持ち歩き、会議中でも普通にタバコをふかす無類のタバコ好き。

そんなクーパーは誰もが思い浮かばない戦術を考案し、その案が戦争で実行されるほどの戦術頭脳の持ち主だ。

しかしその考案される計画はあまり良いものではなかった。クーパーはアメリカの勝利のためならば、部下のことなどどうでもよく、部下などただのとしか思っていないのだ。

「我々が勝利を収めるためには仕方がないことだ‥‥孤児院の子供を集めて少年兵をつくれ」

クーパーの口からここにいる部下を驚愕させる言葉が出た。

すでに軍人と志願する者もいなくなり、女、子供が前線にいる軍人より多くなってしまっていたのだ。

軍人となった親が戦死してしまったこともあるが、戦場となってしまった場所に巻き込まれ子供を残して死んでしまった親も多くいる。女、子供が多く生き残ったのは優先的に戦場から遠ざけられたのもある。生き残った女はシスターや軍の看護師になった。しかし孤児となった子供はまだ幼く仕事を与えることもできないため孤児院が面倒を見ていた。しかし今では孤児院が定員オーバーなため孤児院からあふれかえり屋根のない外で暮らす子供もいた。

シスターはすべての子供たちを孤児院に迎え入れたいが、場所も食料も底をつきかけていた。そんな状況を基地視察でクーパーは目にしていたのだ。

そこでクーパーは孤児の子供に目をやり衣食住で苦しんでいる子供と孤児院を釣り戦争に使おうと計画していたのだ。

「そ、それだと国民に気づかれたとき問題になりかねません。衣食住といっても、こちらにも食料はほとんどないのですよ?」

この場に1人しかいない大佐がクーパーの案である少年兵について抗議する。

金髪のマッシュカットに緑色の正義感が強い力瞳をしていた。大佐の名はウォリック・バード。部下や同期、同僚に慕われているクーパーとは正反対の性格の持ち主だ。

ウォリックの言っていることは正しい。すでに軍のために支給された食料も底をつきかけている。それだけではない。この戦争に資金的援助をしている国民がこのことを知れれば大問題に発展しかねない。

最悪デモに発展するだろう。

しかしクーパーもそのことを承知で言っている。我が祖国のためならば使えるものは使う。それが当然だと思っている狂人だ。もし自分の命令に歯向かう者がいればたとえ国民だろうと容赦はしないそんな男だ。

「問題ない。すでに大統領からの許可は得ている。やれ」

大将以外は皆、驚愕していた。

戦争の戦術計画は大統領の許可や命令がなければ軍は計画を実行することはできない。

しかし大統領からの許可を得ているのならば、この少年兵計画はすでに実行段階にあるということだ。

「しかし!」

親を失った悲しい子供たちを戦争で、それも前線で命を落とせと?

許せなかった。ここにいる上官である大将2人と大統領が、政府が許せなかった。

「‥‥聞こえなかったのか?それとも命令に従えないと?」

大将と大佐の階級差は大きい。上官の命令には逆らうことができない。それにクーパーに逆らったら何をされるかわからない。最悪、自分が戦争の最前線に送られるか又はクーパーの手で殺されるかもしれない。それだけは絶対に避けなければならないのだ。

自分には守らねばならない妻がいる。

ウォリックは今年結婚したばかりだった。ウォリックは元々アレス基地の指揮官ではなく前線の戦闘軍人員だった。中佐時代その頭脳と部下の配慮、指導力をかわれ後方であるこのアレス基地に大佐として昇進し、派遣されたのだ。そのため前線がどんな場所で、どんな地獄かを知っている。この9人の中でも1番前線の環境を知っているだろう。

前線で共に戦っていた同期からは後方に行くこと、昇進すること、そして結婚することを咎められることはなかった。それどころか祝福しれくれて、こんなことまで言ってくれたのだ。

『絶対にこっちに戻ってくるなよ』

『俺たちのために指揮官頑張れよ。殿

『下手な指揮したらぶん殴りに行くからな』

地獄な場所なのに笑ってくれていた。祝ってくれた同期が背中を押してくれた。

だからこそそんな危険な場所にはいくわけにはいかなかった。

‥‥妻のためにも‥‥同期との約束のためにも‥‥。

強く瞳をつぶり何度も考えた。

「(何か良い方法はないか?子供を戦場に送らない良い方法が‥‥!)」

自分が良案を出し、大統領に認められれば少年兵計画はなくなる。しかし人手不足であることには間違いない。それに大統領に認められるほどの案がまったくでない。

ウォリックはゆっくり目を開いた。

「わかりました。‥‥私は上官であるキャンベル大将の指示に‥‥従います」

「それでよろしい。‥‥他に意見のある者はいるか?」

上官であるクーパーにそういわれては歯向かうことはできない。全員沈黙していた。

仕方ない。大将に言われては歯向かうことは許されない。誰もがうつむいたままだった。それ以前に大統領の許可を得たということは、これは大統領命令にあたる。反対意見など言えるはずがない。

「沈黙は了承と得た。すぐに行動にかかれ」

「‥‥わかりました‥‥」

大佐は血がにじみ出るほど手を強く握りつぶした。それだけ悔しいことなのだ。未来のある子供を見殺しにするのだから‥‥。

「(すまない。本当にすまない。こんな俺を許してくれ)」

許されるはずがない。何度悔いても、謝罪しても自分が少年兵計画を了承してしまったのも事実。それは覆ることは絶対にない。


アメリカ全土にある孤児院に連絡をする。連絡は電話ではなく手紙だ。この時代連絡の手段はたくさんある。しかし現在は戦争中、どこの敵国が聞き耳を立てているかわからない。ハッキングをしてくるかもしれない。そのため手紙にしたのだ‥‥と言ってもそれはクーパーを黙らせる言い訳、建前だ。手紙を選んだ本当の理由は少しでも子供たちを前線に送るのを遅らせるためだ。

「(俺にはこれくらいしかできない)」

そう思いながら手紙を書く。

「なぜ孤児院との連絡手段が手紙なんだ?」

「確かに連絡手段はたくさんあります。ですが今は戦争中。確実に連絡が取れるのが手紙だと思いまして」

「まぁ構わないがな」

やはり連絡手段になぜ手紙を選んだのかクーパーに問われたが戦争という言葉を使ったら簡単に承諾してくれた。



そして各地にある孤児院にウォリックの書いた手紙が届く。

「ああ。なんてこと‥‥子供を戦争になんて」

手紙の内容はこうだ。

[全孤児院シスター様。大統領命により10歳以上の子供を戦争に送り込むことが決定いたしました。1名あたり200ドルが支払われます。2週間後招集しに伺います。これは大統領命令です。従うようお願い申し上げます。そのことを外部に洩らすこと、もしくは指示に従わない場合、罰則が与えられます。よく考えください]

「ああ。神よ。子供たちまでもの命を奪いますか?」

シスター全員が手紙の内容を聞き、涙を流す。この世界に慈悲深い人はいないと誰もが思った。そして憎んだ。戦争を行っている国に、大統領に、軍人に‥‥‥。

そして‥‥神にも‥‥。



2週間後。上官であるクーパーに命令を受けたウォリックが孤児院を訪れた。

こういう仕事は少佐や大尉がすることが多い。なぜ大佐であるウォリックが訪れたのか?

答えは会議室での出来事だ。あの時大将であるクーパーに歯向かったからだ。それだけではない。クーパーは指示をするだけでこうした拷問以外の精神的苦痛を伴うことや汚れ仕事は一切しない。クーパーは汚い男なのだ。

ウォリックが車を降りたと同時にシスターが孤児院である教会から出てきた。シスターはウォリックに一礼をした。

「それでは10歳以上の子供をここに‥‥後資料も」

「‥‥‥はい。資料はここに。それでは少々お待ちください」

資料を手渡されそれを確認する。

資料には10歳以上の孤児の顔写真と名前、健康状態が書かれている。1枚1枚確認していくうちに心が痛んでくる。

自分が少年兵計画を覆す考案を出せば、こんなことにはならなかった。自分の不甲斐なさを責めるばかりだ。

「さぁ。こっちよ」

教会からシスターが子供を連れ出てきた。ほとんどの子供はやせ細り、服装も泥や埃で汚れ、袖は破けていてボロボロだった。

「これで全員ですか?」

「‥‥はい」

シスターはそういっても一応確認をしなくてはならない。ウォリックは資料を見て名前を呼ぶ。

「‥‥‥名前を呼ばれた者は、私の前に‥‥‥」

「アラン・エイデン」

「ケント・アンカーソン」

「マシュー・ハック」

「ティム・パーカー」

「クレア・パーカー」


名前を呼ばれた子供はウォリックの言われたとおり前に並ぶ。双子や女の子までいる。クーパーは男女問わず戦争に送り込もうとしている。

許せなかった。ウォリックは資料の紙を握り締めた。

シスターの方を見るとうつむきながら涙を流していた。もし戦争に連れていかれる子供を見てしまえば止めてしまうかもしれない。そして金のため、大統領命のために子供を差し出してしまっていることを悔いているに違いない。思わず目をそらしてしまった。

そう自分がやっていることは許される行為ではない。

「許してくれ」なんて言葉が出せるはずがなかった。そんなことを言える立場ではないからだ。

どちらといえば恨まれる側だ。

計50人の名前が呼び終わる。

「車に乗りなさい」

大佐が言うと子供たちはゆっくり歩み車に向かった。全員暗い顔をしている。当たり前だ。これから行くところはここよりもっと地獄な場所なのだから‥‥。

「待ってください!子供たちを連れて行かないでください」

他のシスターに取り押さえられながら20代のシスターが涙を流しながらウォリックの元へとやってきた。

「お願いします。お願いします」

ウォリックの軍服をつかみ上目遣いで見る。ウォリックの心は痛みを増していく。

「おやめなさい!」

数人のシスターによって引きはがされ、1人がウォリックに何度も謝罪し頭を下げる。

「申し訳ありません。申し訳ありません。ここは見逃してください!」

そうウォリックの書いた手紙には[このことを外部に洩らすこと、もしくは指示に従わない場合、罰則が与えられます。]と忠告を書いた。

もし従わない者が現れればクーパーが何をしてくるかわからない。だから最初に忠告の手紙を書いたのだ。

「シスター。ぼ、僕、戦争になんか行きたくないよ」

「死にたくないよ」

これまで我慢していた子供たちが20代のシスターの声で泣き始め、そして嫌がり始めた。

「「うわあぁぁぁん」」

「お願いします。お願いします。子供たちをどうか‥‥!」

だんだんと収拾がつかなくなってきた。ウォリックだって子供を戦場に連れて行きたくない。しかしここで反発をすればウォリックと共に子供を含めた孤児院は跡形もなく消されてしまうだろう。

「‥‥‥‥これは‥‥これは大統領命令です!従いなさい。早く子供たちを車に乗せろ」

ウォリックは心を鬼にして部下に命令を下した。部下たちは上官ウォリックの命令通り、車に無理やりであるが子供を乗せる。

「いやだ。いやだよ!」

「死にたくない!行きたくない」

「シスター。助けてよ!」

何度も「シスター」「シスター」と呼ぶが、シスターたちは子供たちのことを見ることができず、ウォリックにしがみついていたシスターは膝をついて泣いていた。

「そこのシスターのことは見なかったこととする。上には報告しない。報酬の10,000ドルだ」

こうして50人の子供を無理やり車に乗せ10,000ドル——1ドル200円。日本円にして200万円——を渡した。

「‥‥‥ありがとうございます‥‥‥」

孤児院は子供を養育し保護するところだ。なのに戦争に連れていきその見返りに金をもらう。他の子を養うのには場所と食糧が必要だ。そして金もだ。

金を受け取ったこのシスターはわかっているのだろう。指示に従わなかった時にどうなるかを‥‥。現に指示に従わず孤児院ごと消された場所だってあるのだ。

「では、我々はこれで失礼する」

基地に戻ろうとウォリックは車へ向かう。しかし後ろから小さい声が聞こえ視線を感じたので振り返る。するとウォリックのことをじろりと涙を流しながら睨み、憤怒の形相をしていた。どうやらそこにいる子供の兄が少年兵に選抜されたらしい。

「‥‥‥さない‥‥許さない‥‥お前らを‥‥許さない‥‥」

シスターはその子のところへ行き、大佐に何度も頭を下げる。

これ以上見ていられなくなり早足で車に向かった。自分が戦場に行きたくないがために子供を戦場に送るのだ。許されなくて当然だ。

なぜ自分は軍人になってしまったのだろう。この時、ウォリックは自分が軍人であることを恨んだ。



他の孤児院からも子供を集めアレス基地に連れてきた。その数、約200,000人。

こんなにも孤児がいたのだ。そして孤児院にはまだ10歳未満の子供がいる。早速子供を少年兵にするため訓練を始めた。ずっと泣き嫌がっていた。これもクーパーの指示なのか。訓練に参加しなかった子供はご飯をもらえず、連帯責任として罰が与えられるときがあった。そんな残酷なことが続き、ついに諦めたのか子供たちは泣くのをやめ、全員が訓練に参加するようになった。

銃の使い方、戦場の知識。クーパーは他のことも子供に行うよう部下に指示していた。

それは“洗脳”。

子供を洗脳することは大人を洗脳するより簡単だ。その洗脳の内容が非常に残酷非道だった。

「私たち、僕たちは、アメリカのために戦う兵士。裏切り者には罰則を‥‥。最後には祖国のためにこの身を犠牲に‥‥」

洗脳された子供を見た時は酷かった。子供の瞳には子供特有のキラキラとした光がはいっておらず、そしてブツブツと、洗脳された言葉を繰り返していた。

「(これが。これが。これのどこが仕方のないことなのだ!子供を‥‥こんなことに使うなんて)」

ウォリックは崩れ落ちた涙を流した。子供を戦争に送り込んだのは軍人、そして自分でもあるのだから‥‥。この計画を提案した大将であるクーパーを憎み、恨んだ。

なぜここまでして戦争を行うのか?この国の勝利のためならば、ならなぜ未来のある子供を使うのか。



洗脳した少年兵を使うことで戦争では有利に出ることができた。

東側から進軍してきたフランス軍。歩兵の者が人の気配を感じ、そちらに銃を向ける。しかしそこにいるのは子供だった。

「こ、子供!?」

こんな最前線に子供がいることに驚愕し、一瞬気を許してしまった。戦争では一瞬の迷いが命取りだ。1人の子供に気を取られ背後に回っていたもう1人の子供に気づかなかった。

そして背中に激痛が走る。背後を見るとナイフが刺さっていた。

「くっ‥‥そっ」

フランスの軍人は口から血を流し倒れていった。なぜこんな子供が?刺した子供は自分の子供と同い年だろう。そう思いながら絶命した。

‥‥また他の場所では‥‥。

「前方に子供が」

「なんだと!?」

フランス軍の戦車に向かって走ってくる6人の子供がいた。子供の体にはピンが外された手りゅう弾がいくつも巻き付けられている。

「こ、こっちに向かって来ます!」

「子供でも仕方ない。砲撃で威嚇しろ。相手は子供だ。砲弾に怖がって逃げ帰るだろう」

しかしフランス軍が考えていたことにはならなかった。

「い、威嚇射撃しても突進してきます」

子供は砲撃に怖がるどころかまっすぐ戦車に向かって走ってくる。恐怖心をなくした子供は大人に命じられたままに敵軍の戦車に突進していく。この人数そしてこの手りゅう弾の数では戦車でさえも無事ではいられない。

「仕方ない。相手は敵だ。子供だろうが、蹴散らせ」

「砲弾。設置完了」

「よし撃て!」

子供に向かって攻撃が始まる。1人また1人と人数が減っていく。しかし子供は進軍をやめない。

「ど、どうなっているんだ!?」

3人の子供が戦車まで到達した。

「‥‥祖国のために‥‥」

子供は自爆し、それと共に戦車も破壊され中の軍人も炎で焼かれていった。



「少年兵は役に立っているようだな」

ここにいる部下、同僚でさえ顔を暗くしているのにクーパーは自分の計画がうまくいっていると笑みを浮かべ満足そうだ。

「‥‥‥洗脳のおかげで恐怖心はなく‥‥その‥‥特攻という手段でも役立っていると‥‥‥」

准将の1人が前線の報告を行っていた。少年兵のおかげで進軍も順調だと。

「私の考えたことは正しい」

完全にクーパーだけが盛り上がっていた。

「クーパー。少年兵の件だがもうやめないか?」

やめよう。という言葉にご機嫌だったクーパーの表情が変わった。

「どうした?お前だって、祖国の勝利のためにどうにかならないかといっていたじゃないか。何をいまさら‥‥言うのだ。お前だって望んでいたことだろ?」

クーパーは聞く耳を持たなかった。自分が有利にならないことなら聞こえないという都合のいい耳を持っている。

「‥‥少年兵の件、俺は反対だった。今からでも遅くない!他の方法を考え‥‥」

最後まで言い終わる前にクーパーが長テーブルにあった瓶のウォーターボトルを同僚の頭めがけて振りかざしたのだ。勢いが強かったために、同僚の大将は床に倒れた。

「私の、私の命令が聞けないのか!?私がいなかったら今頃アメリカは占領されていたのかもしれないのだぞ!ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!」

同僚に覆いかぶさり、瓶が割れ鋭くとがった部分で顔を殴った。いや、殴っているより刺しているに近いかもしれない。

クーパーの怒りは収まらない。命令が聞けないどころか、自分に命令してきたことが許せなかったのだろう。怒りをぶつけて何度も何度も殴る。このままでは上官である大将が死んでしまう。しかしどうすることもできなかった。もし止めようとするならば、次は自分が同じことになるとわかっているからだ。ウォリックも止めることができなかった。恐ろしかった。体を動かすことができなかった。

ウォリックはただ上官が暴力にあっていることを見ていることしかできなかった。

血はあたりに飛び散り、大将の体は殴られるたびに魚のようにビクビクとけいれんを起こしていた。

「はぁ。はぁ‥‥はぁ‥‥」

落ち着きを取り戻したクーパーは瓶を投げ立ち上がり同僚を見下していた。

「私の命令を聞かなければこうなるのだ。貴様は同僚だったから知っていたかと思ったのだが‥‥」

同僚の大将は動かない。顔はぐちゃぐちゃになり原形をとどめていなかった。クーパーは同僚である大将を殺害してしまったのだ。

一息ついたら顔や手は血まみれなのはお構いなしにクーパーはタバコをふかし始めた。

「‥‥こいつを遺体安置所に運べ」

ウォリックを含む8人の指揮官たちが恐怖で立ち尽くしていた。

クーパーはいつもより低い声で部下に命令をくだした。

「命令が聞こえなかったのか?早くこのくそ野郎を遺体安置所に運べ」

「は、はっ」

中佐2人が急いで担架を持ってきて、大将の全身を白い布で隠し、中佐4人がかりで大将を指令室から運び出した。

「このありさまじゃ、ここの掃除も必要だな。せっかくの絨毯が台無しだ。‥‥さて、どうするか‥‥何か問題でもあるか?バード大佐」

「(問題?問題しかないだろう。キャンベル大将は悪魔だ)」

口答えすればここで殺されるか又は使い捨てにされるか、前線で殺されるかだ。

「‥‥‥何も問題はありません。キャンベル大将」

「それならいい。ああそうだ。ここを掃除するよう部下に頼んでくれるか?絨毯はそうだな‥‥張り替えるようにと」

「わかりました」

ウォリックは掃除係に指令室の掃除を頼みに行った。

「う、うぇ」

先程の光景を思い出してしまい酷い吐き気に襲われた。動けなかった。自分の命が惜しくて上官を助けることができなかった。

あそこに平然として立っていた自分が‥‥。頭がおかしくなっていく。すべてはキャンベル大将のせいで‥‥。

いや、キャンベル大将だけの責任ではない。自分にも罪がある。

あの時自分は平気で少年兵を前線に送り出したのだ。

このまま自分の心が崩壊していくのも時間の問題だろう。

「(一体どうすれがよいだろうか?)」



『‥‥‥さない‥‥許さない‥‥お前らを‥‥許さない‥‥』

ウォリックは毎日、悪夢に悩まされていた。毎日同じ夢だ。子供が現れ、ブツブツと何かを言っている。近くに行くとその子供は自分を睨みつけていた子供だった。そして‥‥。

子供にナイフでめった刺しにされ、そこで目が覚める。

目を覚ますと汗で寝間着はびっしょりだ。ひどい喉の渇きもある。そして吐き気。

「う、うぇ」

これで何度目だろうか?

少年兵を戦場に送り出して2週間が経った。ウォリックはこの2週間で10㎏体重が減ったのだ。食事をしても悪夢のせいですべて吐き出してしまい、その影響か食欲もなくなってしまった。もともとやせ型だったため、さらに痩せてしまい、その姿は酷いものだった。妻は変わり果てていく夫を見ていられなかった。

「あなた。本当に大丈夫なの?」

「‥‥ああ。大丈夫だ」

「あなた‥‥もう軍人のお仕事‥‥お辞めになったほうがいいんじゃないかしら?」

少し考えてしまう。辞めてしまえばあの残酷非道の大将である、キャンベル大将とも会わなくてすむ。しかし妻のため、自分のために子供を戦場に送り出してしまったことに後悔の念がある。

辞めてしまっては、自分がこの環境から逃げ出すようで嫌だった。妻の表情はとても心配している顔だ。でも、妻の顔を見ると少し元気が出る。妻がいてくれたおかげでまだ壊れずにいられる。妻がいてくれるからまだ人としていられる。すべて妻のおかげだ。だからこそ妻だけは決して失いたくはない。

「大丈夫だ。‥‥愛してる」

なんだかこれから死にに行くような感じだ。妻も何かを感じ取ったのだろう。涙を流していた。

「‥‥私も愛しているわ‥‥」

泣いている妻を強く抱きしめキスをした。これ以上妻に心配をかけたくない。妻も自分も安心できるような、子供をこれ以上戦場に行かせず、平和な世の中にしたい‥‥。それが洗脳し、戦場に送り込んでしまった子供たちへの少しもの罪滅ぼしをしたい。

‥‥そのためには‥‥。



ウォリックはある行動に出た。

それは今の戦争状況を国民に流したのだ。

なぜクーパーを告発しないのか?答えは簡単だ。クーパーはいろんな相手を買収しているからだ。何かあった時のための担当弁護士をつけ、戦争状況少年兵を報道されないようメディアを抱き込み、告発されないように部下を脅迫し、配下にして、告発された際に反乱分子として逮捕させる警察を金で巻き上げ、自分の良い環境を作り出し、すべて権力によって周りを支配している。

それが許されなかった。

それ以前に少年兵を送り込む際に許可を出した大統領も許せなかったが、一番はキャンベル大将だ。

ウォリックは自分のコネが聞くメディアに少年兵のことを流した。後は国民がこれを許すか、許さないかだ。

1週間後。残酷な戦争状況を国民が知ることとなった。記事にはこう書かれていた。

[人手不足により軍が前線に送ったのは洗脳された少年兵!?本当の戦争状況は‥‥]

メディアが大きく出してくれたおかげでアメリカ国民が現在の戦争状況を知ることとなった。

「どうなっているんだ!?子供を洗脳して少年兵を前線に送っていたのか?」

「‥‥酷い。酷すぎる」

「残酷な奴らに俺らは戦争を任せていたのか!?」

そしてこの少年兵問題は国内反乱デモにまで発展したのだった。各地にある軍基地には多くの国民が集まっていた。プラカードや看板を持ってデモ行進が行われている。“少年兵を開放しろ”、“主犯を死刑にしろ”、“子供たちに未来を!”など書かれている。デモ隊は軍基地に卵や石を投げるこう言いも行われていた。クーパーの恐れていたことがおこってしまった。しかしこんなことがおこることを想定して警察を買収したのだ。

警察は総動員で反乱分子を逮捕していったが、その数はとても多く逮捕しきれないほどだった。

「いったい誰だ!マスコミに情報を流したのは!?」

クーパーはアレス基地にある自室で暴れていた。アレス基地にも多くのデモ行進が続いていた。ここに主犯がいるのを分かっているのか、他基地よりデモ隊の数が多い。机にあったものを投げ、壁を殴っていた。想定はしていたが、まさかまだ軍に歯向かう者がまだいたとは‥‥。

「キャンベル大将!」

指揮官である中佐の1人が大急ぎでクーパーの執務室を訪れた。

「何だ。私は今忙しい!」

「そ、それが‥‥大統領命令で緊急招集です!」

「何!?」

ウォリックは急いで指令室に向かう。部下からの報告には大統領命令がくだったそうだ。

キャンベル大将の処分だろう。そう思い期待を膨らませてた。

「失礼します」

「来たかね。バード大佐」

「大統領命令の緊急招集と聞きましたが‥‥いったい何が?」

「(キャンベル大将の処分であってくれ!そうすれば私のやったことが報われる‥‥)」

大佐含め9人の指揮官が指令室に集まった。クーパーが最初に口を開いた。

「集まってくれたのは、皆聞いたと思うが大統領による招集だ」

クーパーはあまりいい顔をしていない。

「現在の進軍をやめ、前線にいる軍は国境まで撤退だ」

「ど、どういうことですか?」

「世界中の国王、総理、大統領、いわゆる世界の長が一堂に集まり会議を行うらしい。その名も“世界会議”」

「(世界会議。世界中の長が集まる?今世界は戦争中なんだぞ。そんなことができるのか?)」

誰もが疑問を持っていることだ。しかもタイミングだ。クーパーの悪事を世に出すことができたと思ったら“世界会議”?これでは世界会議の報道によってクーパーの罪が隠されてしまう。

「私も世界会議についてはよく知らないのだ。大統領からは戦争は一時戦闘中止、我々指揮官は大統領府に赴かなければならない。行くぞ」

何が起こっているのだ?

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