第16話立つ陰キャは跡を濁さない

 翌日、最後に三限の必修授業を終えて帰るべく廊下を歩いていたら、後ろから急いだ足音が近づいてきた。

 そいつはこの前と同じように俺の真後ろでぴたりと止まる。

 俺はそれに構わずバス停を目指そうとして、


「――待って」


 制止の声は誰に向けられたものなのか。

 きょろりと周りを見回して、ほかに誰もいないことから、きっと俺に向けられたものなのだろう。

 半身だけ振り返った先には少し苦し気な表情をした小幡が立っていた。


「どうした」


「昨日のこと、謝りたくて......」


「そんな大したことじゃないだろ。べつに謝られることじゃねーよ」


 何の気なしにそう返すと小幡の目がキッと俺を見据える。


「そんなことないっ!」


「......そんなことだよ。先輩の頼みなら断れねーし、俺だってお前の立場だったらそうする。お前の判断は正しい」


「正しいとか、どうでもいい......」


「なら謝る必要ないだろ」


 俺が言うと小幡の目の端がさらに吊り上がる。

 そして一歩踏み出した瞬間、後方から足音が近づいてくるのが聞こえた。


「もう人来るぞ」


「なんで......。なんでそんな......!」


「――小幡さん」


 俺が名前を呼ぶと正気に戻ったのが、はっとしたように口元を抑える。


「......」


 階段から木村たちが現れたのを確認して、俺はまだ何か言いたげな小幡から視線を切った。


「......じゃあな」


 振り返る直前にうしろで小幡がなにか言ったような気がしたが、よく聞き取れなかった。

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