#28 見切りを付けられた文芸部




 翌日水曜日の放課後、文芸部に行くとフジコさんと金田ツインズが不在で、日比野さんだけが居た。



「日比野さん、こんにちは。 他の3人は?」


「水元くん、こんにちは~。 みんな出かけてるよ~」


「そうですか」



 ほんわかした雰囲気の癒し系美少女で、男子に人気がありそうな日比野さんと二人きり。

 以前の俺だったら、喜んで口説いているだろう。



 だけど今の俺は違う。

 来るものは拒まないが、自分から行くのはダメだと考えている。



 そう

 俺は罪をなるべく作らない様にする男に生まれ変わるのだ。



 それに、文芸部軍団には隙を見せるのは危険だと、俺の主人公的第六感が警鐘を鳴らしている。



「水元くん、水元くん」


「なんです?日比野さん」


「私もノリオくんって呼んでもいいかな?」


「ええ、別に構わないけど」


「じゃぁ私のこともスズって呼んでくれる~?」


「それは遠慮しておきます」


「なんで!?」


 俺が断ったことが予想外だったのか、日比野さんはこっちがビックリするくらいビックリしている。 きっと男子に振られたとか距離置かれたとかの経験が無いんだろうな。


「名前で呼ぶほど親しくないので」


「えぇー、これから親しくなるのに~」




 俺は、サクラさんとキョウコちゃんの二人を立て続けに堕としたからなのか、何となく分かる。


 この日比野さんは、違う。


 俺が求める魅力とは違うのだろう。


 確かに容姿も雰囲気も可愛らしいし、男子にもモテるだろうことが分かる。

 それでも、俺の子猫ちゃんたちの魅力には敵わない。

(キョウコちゃんは別枠だけど)


 何て言うか、ワクワクというかドキドキというか、心が震える様な気持ちが湧いてこないんだよな。


 キョウコちゃんと居る時なんて、俺の心、震えっぱなしだぜ? だいたいが恐怖心で震えてるんだけど。




 結局、日比野さんは部活そっちのけで俺に話しかけ続けてくれたけど、残りの3人が来るのか分からなかったので、1時間もしないうちに日比野さんを置いて俺は先に帰った。 お喋りするだけなら、怪しい文芸部よりもメグっちとお喋りするし。



 そう

 俺は罪をなるべく作らない様にする男、ノリオ。





 ちょっと言いづらいな。











 そして金曜日の放課後、文芸部の教室に行くと、今度は金田ツインズの二人だけが居た。



「こんにちは、ミカンさんとレモンさん」


「あ、水元先輩、こんにちわーっす!」

「ちわーっす!」


「ところで、フジコさんと日比野さんは?」


「あーえーっと、お使いらしいっすよ」

「備品の買い出しらしいっすね」


「へぇー、じゃぁいつ帰ってくるか分かんないよね?」


「そーっすね」

「多分遅いっすね」


「じゃあ俺は帰るね」


「「って、はやっ!」」


「他の二人によろしく伝えて下さい。では、お疲れ様でした」


「待った待った!」

「少し待った!」


 俺は日比野さんの時よりも警戒している。


 何せ金田ツインズときたら、自分は読んでない糞つまんないラノベ奨めてくるは、18禁BL奨めてくるわで、俺の事おちょくってる感じするんだよな。


「何か俺に用事でも?」


「ちょっとくらい私たちとお喋りしましょーよ!」

「そうですよ!交流深めましょーよ!」


 本当は、断ってさっさと退室したいところだが、今ここでそこまであからさまな態度をとると、俺一人悪者になるだろう。


「はぁ、わかりましたよ。 我儘な後輩だぜ、やれやれ」


「うお!いきなり出た! ノリオ節!!!」

「生ノリパイセン、半端ないっす!」


「・・・・」


 ノリオ節ってなんだよ!

 ってツッコミ入れたかったけど、ツインズの思う壺だと思ってグッと堪えた。


「そう言えば水元先輩! 火野先生と付き合ってるんすよね?」

「そうそう、それそれ!」


「さぁ、どうなんだろう?」


「またまた~! 火野先生、完全に水元先輩にイチコロだったじゃないすか!」

「あの時は凄かったっす! あれで付き合ってないとか無理あるっす!」


「いや、なんだかんだ言っても、教師と生徒だしね。 そんな簡単な話じゃないよ」


 教師と生徒とかどうでもイイと思えるくらいに、もっと厄介ヘンタイなことで頭痛いけど。



 時計を見るとお喋りを始めてから15分経過していた。


「よし、時間になったので帰る。 二人ともお疲れ様でした」


「ちょ!?」

「マジか!?」



 俺が警戒心MAXでも遠慮なくキョウコちゃんのことぶっ込んで来るあたり、やはり金田ツインズは気を付けないとな。



 以前の俺だったら、きっと金田ツインズとも楽しくお喋りしていただろう。


 だけど俺には可愛い子猫ちゃんたちが居る。


 真のハーレム主人公は、無闇やたらと女の子との絆を広げるのではなく、この人だ!と心に決めたヒロイン達を平等に愛して守ることが主人公としての本懐だと俺は考える。 女の子なら誰でも良い訳じゃない。つまり数では無く、深さ?濃さ?が大事なんだと。


 というのがここ最近分かって来た。

 俺も成長しているということだな。


 だから、文芸部軍団には悪いが、俺は彼女たちに常に警戒し、距離をとる様にした。








 フジコさんのこともそうだ。


 一時は心通わせることが出来ると思っていたが、今の俺なら分かる。


 フジコさんは、俺のことを信用していない。


 フジコさんは、俺との間に薄いが頑丈な壁を作っている。

 親しげに会話をするが、絶対に踏み込ませないのだ。


 俺がいくら心の中を曝け出しても、フジコさんのそういう所は一向に変わらなかった。


 それはつまり、フジコさんは俺に対して一切信用していないし、彼女は俺に対して本音を見せるつもりが無い。


 これでは主人公とヒロインの信頼関係は絶対作れない。



 だから俺はフジコさんを切り捨てることにした。


 俺はヒロインを増やしたい訳じゃないからな。


 難攻不落のヒロインに無駄な時間を費やすくらいなら、既に身近に居る子猫ちゃんたちとの時間を増やすぜ。




 そう

 俺は罪をなるべく作らない様にする男、ノリオ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る