#12 先輩との放課後デート
HRが終わり放課後になると、隣の席の月野さんへお別れの挨拶を済ませ、サクラ先輩が待つ校門へ向かう。
サクラ先輩は既に校門に来ていた。
これまでの風紀委員としてでは無く、一人の女子生徒として俺のことを待つその佇まいが、俺の目にはいつもと違って新鮮に映った。
姿勢よく背筋をピンと伸ばし顔を真っ直ぐ正面へ向け、足は爪先を揃えカバンを両手で前に持つその姿は、身長が高いせいもあり、ただ真っ直ぐ立って居るだけなのに、とても絵になっていた。
それに、やはり元風紀委員だけあって、制服は着崩すことなく模範的な着こなしなのもサクラ先輩の魅力を引き立たせていた。
スカート丈はメグっちみたいな短さにしておらず、ヒザ上までしっかり隠れている。 かと言って決して地味な訳では無く、女性としては平均よりも長いその脚は、黒いタイツに包まれ女性的で清潔感のある色気も漂わせていた。
やはりサクラ先輩は、ヒロインとしての風格を十二分に持つ女性だ。
おっと
俺としたことが、思わず見惚れてしまった。
「サクラ先輩、お待たせしました。 サクラ先輩の美しさにツイツイ見惚れて声を掛けるのが遅れてしまいました」
「大丈夫だ、それほど待ってないぞ。 しかし水元は一々口説き文句を言わないと、死ぬ病気にでもかかっているのか?」
「いえいえ、俺はただ心に思ったことを正直に言ったまでですよ、サクラ先輩」
そう
俺は罪作りn
「まぁ、そういうことにしておいてやろう。 それじゃあ早速行くか」
だから、言わせろよ
「ところでサクラ先輩、今日はドコに行くんですか?」
「そうだなぁ、ファーストフードとかカラオケとか色々行ってみたいんだが、水元は普段どんなところへ寄り道しているんだ?」
「むむむ? 寄り道ですか?」
「ああ、そうだ。 長く風紀委員をやってたせいで、私は今まで寄り道とかしたことが無くてな」
「なるほど・・・」
風紀委員を辞めたのをいい機会に、ちょっとハメを外そうと考えて居るのか
「とりあえず近くにマックあるんで、そこ行って作戦会議でもしませんか? シェイク飲みながらサクラ先輩の希望を聞かせて下さいよ」
「ふむ、そうだな。そうするか」
俺とサクラ先輩は並んで歩いてマックへ行き、シェイクとポテトを二人分購入してから店内で席を探した。
このお店は高校から近いってこともあり、ウチの生徒が沢山居る。
その店内に主人公である俺と、風紀委員(元)であり3年でも屈指の美女で有名人であるサクラ先輩が二人連れで現れたものだから、どうしても注目を集める。 店内に入った時からウチの生徒達がチラチラこちらを見ていた。
「サクラ先輩、あそこの窓際のカウンター席にしましょう」
カウンター席なら、窓の外を向いて座り店内には背を向けるから、俺たちの顔をジロジロ見られることもないだろう。
まぁ俺は主人公様だから周囲の注目を集めるのも平気だが、サクラ先輩はそうもいかないしな。
サクラ先輩は店内に入ってからずっと目を輝かせながらキョロキョロしていたが、カウンター席へエスコートすると、背筋をピンと伸ばした綺麗な姿勢で座った。
「サクラ先輩、もしかして学校帰りに買い食いとか、初めてですか?」
「あぁ、そうだ。ずっと風紀委員をしていたからな。 寄り道とか買い食いは校則違反では無いが、やはり模範となるべきだと考えるとどうしてもな」
「じゃあ、サクラ先輩の買い食い初体験は、俺が頂いちゃったってことですね」
「なにか言い方がイヤらしいな。 でもそうだな。水元が私の初体験の相手だな」
「いや、サクラ先輩も言い方!」
「ふふふ」
サクラ先輩は、今まで見た事が無い様な笑顔で楽しそうに笑った。
今までサクラ先輩に絡まれたときって、風紀委員としてガミガミ怒られるばかりだったしな。
そんなサクラ先輩を笑顔に変えてしまう俺の
自分で自分が恐ろしいぜ
そう
俺は罪作りな男、ノリオ。
今度は言えたぜ
「サクラ先輩、俺考えたんですが」
「うむ、なんだ?」
俺とサクラ先輩は、ポテトを摘まみながら雑談を始めた。
「別に放課後の寄り道は今日だけってわけじゃないですよね。 だったらとりあえず今日は無理に色々行かずに、ここでゆっくりお喋りしませんか?」
「そうだな。いきなり色々詰め込んでも疲れてしまいそうだしな」
「そうですよ。 それにサクラ先輩は受験勉強もありますしね」
「じゃあ、今日だけじゃなくこれからも私の寄り道に付き合ってくれるのか?」
「ええ、もちろんですよ。なにせ俺は主人公ですからね、ヒロインをエスコートするのも俺の役目ですから」
「フっ・・・・なんだか不思議なものだな・・・・」
「何がですか?」
「風紀委員の時は、水元のおかしな妄言を聞くと「バカにするな!」と頭に血が昇ったのに、こうして落ち着いて聞くと「そうかもしれない」って思えてしまうのがな。 それに私のことをヒロインだの美しいだの面と向かって恥ずかし気も無く言う男子も水元だけだしな」
「え?サクラ先輩、今頃俺の魅力に気が付いたんですか? ちょっと遅すぎですよ。やれやれ、困った子猫ちゃんだ」
「ふふふ、こういう時間も楽しいものだな。 やはり水元を誘って正解だったよ」
そう言って、シェイクをずずずっと吸うその横顔は、なんだか幸せそうな柔らかな表情だった。
その後、サクラ先輩との雑談の中で、色々本音を聞かせてもらった。
1年の時からずっと風紀委員をしていた為、周りの友人たちからは距離を置かれていたこと。
模範的であろうと、自分自身をずっと律して来たこと。
そんな風に真面目で孤独な学生生活を送っている中で、俺という異質な後輩が現れたことがショッキングだったこと。
いくら注意しても信じられないほどのポジティブさでさらりと躱してしまうわ、いくら怒って注意しても次から次へと甘い口説き文句を言いだすわで、いつもイライラと屈辱を味わっていたそうだ。
そして風紀委員をいざ引退してみると、クラスメイトなどの周囲の人間からは相変わらず距離を置かれたままで、自分に構ってくれる人間が俺しか居なかったことに気が付いた、と。 俺という人間が、実は悪いヤツじゃないんじゃないかと考えて居たところに、今日のお昼、俺から声を掛けられて俺への評価が確信にかわり、この放課後デートに誘ったという。
「サクラ先輩、さっきも言いましたけど今更ですよ。 俺最初から言ってたじゃないですか。 俺は主人公様だって」
「あぁそうだったな。 これからも私の唯一のボーイフレンドとして、よろしく頼むな」
ふっ
また一人の子猫ちゃんのハートをガッチリ鷲掴みにしてしまった様だな
そう
俺は罪作りな男、ノリオ。
マックで2時間ほどお喋りを楽しみ、サクラ先輩を自宅まで送って帰った。
「受験勉強、頑張って下さい」とサクラ先輩と自宅前で別れた後、サクラ先輩は俺のことを見えなくなるまでその場で見送ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます