六怪目「恨み消えぬ者」

どんな怪物だよ

「いっちに! さんし!」


 たまにはストレッチをしてから、調査に行こう。

 だって、どうせこの後また走り回ることになりそうだし……。


「よし!」


 目覚めもばっちりだ!

 今日も頑張るぞー!


「恨み消えぬ者」


 おっ、今回はホラーか!

 最近は体を使う死の恐怖ばかりだったけど、こういう背筋がゾッとする不気味な恐怖も気分転換にいいね。


「その者、永きに渡り己の恨みを表す」


 長期間恨みが続いてるって、相当なんだな。

 もしこれが幽霊なら、地縛霊といったところかな。

 今でも出会えるかはわからないけれど、探してみる価値はある。

 てか、探さないと自由研究が成り立たない。


「囚われれば、命危うし」


 ……なんかさー。

 いよいよ適当になってきてないか、作者。

 この「命危うし」とか、山の王の説明文にも書いてあったじゃん。

 そもそもどの怪異も命危うしだったし。

 ネタ切れしてるのか?


「どうしようかなー」


 記述はここまで。

 もはや場所の検討さえもつかない。

 また山に行く?

 もうあそこに行ったらなんとかなるだろう。


「いや」


 殺人鬼のときみたいに、特徴的な事件が見つかるかもしれないな。

 だって、長い間恨みを残すほどのことがあったに違いない。

 少しぐらい手がかりがあるはずだ。


―――――――――


 というわけで、図書館のパソコンの前。

 なんて検索すればいいのかな。

 恨みが残るってことは、また殺人事件関連?

 もしくは、のじゃ娘みたいに人柱かな?

 いずれにせよ、結構昔の出来事なんだよな。

 新聞記事なんて出てこないかもなー……。

 と言いつつも、とりあえず適当な単語で検索。


「開封村 伝承 事件」


 これでどうだ!

 もちろん場所はここ開封村。

 最近の出来事じゃないはずなので、伝承とでも入れればいいだろう。

 事件は……さすがに要らなかったか?

 しかし、検索ボタンを押すと奇跡的に一件ヒットした。


「開封村事件簿 伝承に残るあやかし事件は史実なのか」


 言っちゃ悪いが、うさんくせー記事が出たな……。

 いかにも書くことがない地方新聞が無理やりでっち上げたコラムくさいな、これ。

 まあ、一応レポートの素材にもなるし読むか。

 ここにある妖事件ってのを知らないし。


「ときは平安時代。現在の開封村周辺は今でも続く由緒ある家系である七つ星家が治めていました」


 そこまでさかのぼるの?

 でもまあ、宇宙人も侍に会ったって言ってたしな。

 それにしても、七つ星家ってそんな昔から会ったんだな……。

 なんて感想にデジャヴを覚える。

 ソースはどこだろ。

 あの蔵探したら、見つかるかな。

 と、脱線した。


「そのころに起きたお話を七つ星家が記録した『怪封譚』という書物が残されています」


 おっ、面白くなってきたな。

 開封の漢字が違うけど、これはたしか昔の名称だったよな。

 あと、七つ星家がってことは、下手したら家に原本あるんじゃないか?

 ま、探すのめんどくさいから嫌だけど。


「そして、中でも今回取り上げるのは『妖事件』だ。もちろん『妖事件』と書物に書かれているわけではない。これは、その話の内容から私が独自にそう呼んでいるだけだ」


 このライターさん、中二病なのかな。

 普通変な事件だったとしても、妖って付けるか?

 いや、ライターのセンスを疑う暇はない。

 さてさて、どんな事件なの?


「ある男が山に入った。その男は周辺で有名な侍で、切れぬものはなにもないと言い、熊や猪などの獣のみならず、物の怪さえも退治していたという」


 なんだそいつ、すげーな。

 俺なんかより、そいつが怪異調査してくれたらいいのに。

 にしても、こいつは山に入ってなにをする気だったんだ?

 まさか熊を倒しに来たのか?

 そんなことしたらきっと山の王が怒るぞ。


「男の目的は開封村に住まう物の怪を退治すること」


 どれだよ!

 この村いっぱいいるぞ、その類!

 しかも、漏れなく全部生き残ってるからな。

 この伝承を少し疑い始める。


「村の家畜を食い殺し、果ては村人さえも襲うそれ。姿は三つの首に一つの胴体を持つ犬だと村人には噂されていた。また、尾が蛇であり、その目で睨まれれば魂が抜け体が石のようになると言う」


 ツッコミどころ!!!

 三つの首を持っている犬って、ケルベロスかよ!!

 そのわりにしっぽが蛇って、ぬえかよ!!

 しかも蛇に睨まれて石になるってメドゥーサっぽい!!

 え、この時代にもうギリシャ神話が人々に浸透してたの?

 そりゃあ、古事記とギリシャ神話に似てる場面があるって言われてるけど、さすがに!!


「数日の捜索の結果、男は物の怪の住処を見つける。覚悟を決めて男が中に踏み込むと」

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