四怪目「時の番をする者」

思い出の千年杉

 ピピピピ!


 電子音がキッチンに響く。

 タイマーの音だ。

 今日のお昼はカップラーメン。

 几帳面な俺はきっちり三分計ってから食べる。


「いただきまーす」


 蓋を開けると湯気が立ち上る熱々のラーメン。

 今日は味噌味の……。


「硬っ!!」


 なんだこれ!?

 まだバリバリで固まってるじゃないか!

 いくら硬麺が好きだからって、これはやばい。

 ほぐしてないとかそういう次元じゃないぞ。


「あれー?」


 タイマーで計ったんだけどな。

 誤作動か?

 それともお湯がぬるかった?

 不思議に思いながらも、お腹が減っていたので硬いラーメンをむりやり食べる。


 この硬麺の真相は、すぐにわかることになった。


―――――――――


「時の番をする者」


 四つ目の怪異だ。

 相変わらず簡素な説明。

 作者は絵が描けなかったのか?


 ……愚痴を言うのはここまでだ。

 で、時の番?

 タイマーでも持ってんのか?


「時乱れしとき、それ番人怠慢したるときなり」


 時が乱れる……って、かなりヤバそう。

 だがそれが何を指しているかはわからない。

 時間がおかしくなるのか?

 例えば、さっきのタイマーの誤作動とか?


 そして、その原因が怠慢?

 番人の?

 そんな大事な番人ならさぼるなよ。

 あと、それが俺となんの関係があるんだ?


「時を超えし七つ星と、千年杉で待ち合わせよ」


 時を超えし七つ星?

 どういうことだ?

 待ち合わせよとか言われても……いや、待ち合わせるってことは七つ星家の誰かなのか?


 しかも、記述はここまでだ。


 今回は謎が多すぎるな。

 ツッコミどころ満載だ。

 さて、どれから取り掛かろう。

 一番具体的な奴がいいよな。


「千年杉……かな」


 少なくとも時の番人よりは手がかりがありそう。

 でも、千年杉ってなんだろう。

 聞いたことないな。

 じいちゃんなら知ってるかな。


「ねぇ、じいちゃん」


 家の中を探すと、縁側で日に当たっていたじいちゃんを見つけた。

 お茶を飲んでくつろいでいるところ、申し訳ない。

 俺が声をかけると、振り返らずに返事が来る。


「なんじゃ?」


 無愛想なような、喜んでいるような。

 感情が読み取りづらい声だ。


「千年杉って……知ってる?」


「……」


 じいちゃんは黙ってしまった。

 気まずい沈黙が流れる。

 これ、触れちゃいけないことだったかな。

 それとも知らないのかな。


「懐かしいのぅ……」


 ぽつりとじいちゃんは呟いた。


「え?」


 懐かしいってことは……。


「ワシが明と……」


「俺と?」


 なんでここで俺の名前が出てくるんだ?

 俺は千年杉なんて知らないんだけど……。

 覚えていないだけで、実は過去にじいちゃんとの思い出が?


「いや、今のは忘れてくれ」


 な、なんだよ……。

 そう言われると気になる。

 俺と何があったんだよ。

 俺には全く心当たりがないけど、中途半端に辞められると聞きたくなる。


 ……かといって、無理やり聞き出すのも。


 こんな感じで頭をぐるぐる回転させていると、じいちゃんが話し始めた。


「千年杉はのぅ……図書館の裏に行くと丘があるじゃろ?」


「え、あー、うん」


 そんなのあったっけ?

 思い出せないけど、適当に返事をしてしまった。


「そこにある、大きい大きい杉じゃよ」


「なる……ほど」


 大きい杉ってだけじゃわからない気もするけど。

 千年杉って言うくらいだ。

 一目でわかるくらい大きいんだろうな。


「ありがとう、じいちゃん」


 さっそく行ってみよう。


「ああ、気を付けるんじゃぞ」


―――――――――


 怪異の調査で何度か訪れている図書館。

 その裏にはそこそこ広い公園がある。

 そして、そこの中央にそびえる杉の木が。


「千年杉かな?」


 これ以外に周囲に杉の木はない。

 消去法でいくと、これだけど。

 見た感じかなり大きくて太い幹なので、千年というのもあながち嘘じゃないかもな。


「あ」


 木の側に看板がある。

 古びて錆だらけだが、なんて書いてあるかな。


「この杉は古くからここを納めていた大名である七つ星家が植えたと言われています」


 な、なんだって……。

 ここにも俺の先祖が。

 知らなかった。


「また、噂ではこの杉は永きに渡ってこの地を納める守り神とも考えられています」


 守り神か。

 たしかにこのどっしりとした杉からは、安心感も感じられる。


 でもさ。


「これがどうしたんだよ……」


 四つ目の怪異とどう関わっているんだ?

 この杉の木が時の番人なのか?


 俺はなんとはなしに木に手を触れる。

 ほんもりと木の温もりを感じるが、特に……。


「ん? な、なんだこれ……!」


 突然視界にノイズが走り始めた。

 まるでゲームがバグったみたいに。

 初めはチラチラと、徐々に全体が歪み始めた。


「うっ、クソっ!」


 気分も悪くなってきて、俺は……。

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