決戦

物語中毒者

第1話

目の前に広がるのは魔物の群れ。

 最後尾に控えるのは親玉である魔王。 

 これに立ち向うのはフードを被った男ただ1人。

「なんだ貴様は?」

 訝しみながら目の前のフード男に問う魔王。

 フードから覗いた口が三日月に光る。

「ただのプレイヤーだ」

「ぷれいやー?」

「ほら、喋ってないでとっととやるぞ」

「……なんだ、貴様ただの狂人か」

 魔王は警戒の目を侮蔑に変えた。

「この軍勢にたった1人で何ができる?」

 冷めた目で見下ろす魔王に向かってプレイヤーは腰の剣を抜く。

「あ〜? 誰が1人だって?」

 プレイヤーがフードを取ったのを合図に、足元から続々と兵士を出てくる。

「!? 貴様、ネクロマンサーか!!?」

「さあ、どっちの軍勢が強いか確かめようぜ!」

 現した骸骨フェイスの片目に鬼火を灯したプレイヤーは、側の兵士に魔法を撃たせ、それを開戦の合図とした。




 お互いの兵と兵がぶつかり合う。

 数はこちらの負け。だが兵の質はこちらの方が上だ。

 それでも時間が経つ毎にこちらの形勢が不利になっていく。

「ほら、挑んできた時の威勢はどうした! もう終わりか!」

 俺の兵が段々減っていき、魔王の配下を半分殺したところでとうとう全滅した。

「まあこんなものか。軍勢同士の戦いならやはり質よりも数がものをいうな」

 勝利を確信しているのだろう。魔王はドヤ顔で教えを解くように言ってきた。

「ふんっ、生まれ変わったら今度は数を優先するんだな。 全軍進め!」

 魔王がトドメをさそうと軍を進めてくる。

「確かに軍勢同士では数がものをいうのだろう。そんなことはわかっている」

「なんだ? 負け惜しみか?」

「いいや事実を言っているだけだ。だがな俺はネクロマンサーなんだよ」

「何?・・・っ!?」

 俺は軍勢を蘇らせ、下から軍を突き上げる。

 串刺しにされる敵軍を見ながら俺も魔王に向かって前に出る。

「魔力的にこの復活が最後だが十分だ。 第二ラウンドといこうぜ!!」

「っ怯むな! 全軍奴を轢き潰せーっ!!!」



 兵と魔物の間を走り抜け、時折邪魔な魔物を切り捨て、なるべく無駄な戦闘を避けて魔王のところまで辿り着く。

 一撃で沈める、そのつもりで振るった不意の渾身。

 しかし、それに魔王は途中で気付き弾こうとする。

「ぬっ?!」

 が、力は均衡、お互いに弾かれることもなく鍔迫り合いで拮抗する。

 魔王に力で拮抗する存在などこの世に1人しかいない。

「貴様、まさか勇者か!?」

「そうさ! 流石に魔王相手に周りに味方も敵も居ては邪魔なんでな! ならいっそ敵も排除し斬っても困らない味方を用意すれば全部解決するだろ!」

「だが役職は一人一つのはずだぞ! どうなっている!?」

「だからプレイヤーなんだろうがっ!」

 お互い一気に力を入れ、剣を弾き距離を取る。

「ぷれいやーが何かは知らんがこれで葬ってやる!」

 魔王は剣を水平に構え突撃態勢を取る。本当に一突きで終わらせるための構えだ。

「来い! 魔王!!!」

 俺は剣を右肩に立て垂直に構える。カウンター狙いで剣を合わせるタイミングを外すと死ぬが、あの突撃を五体満足に躱せる気がしない。

 極度の集中で世界の速度が緩くなる。お互いに相手の一挙一足全てに集中し、緊張が溶ける瞬間を待ち続ける。

 固まっている俺たちの頬から汗の滴が落ち、地面についた瞬間、全てが動き出した。

 お互い同士に一歩踏み出し、剣を出す。

 わずかに魔王の突きの方が早い気もするがもう止まれない。

「間に合えーーー!!」

 全身の筋肉をフル稼働し、剣を合わせるために剣をさらに加速させる。

「おおっーーー!!!」

「ああああああ!!!」

『斬!!!!!』

 砂煙を引き摺りながら、お互いに数歩離れた位置で止まる。

 いつの間にか周りの戦闘も終わり、お互いの呼吸音だけが聞こえるほどその場は静かだった。

 一振りに全ての力を使ったからか感覚が遠のき、これ以上立っていられず膝をつく。

「見事……」

 後ろから何かが倒れた音がする。

 遠のいた感覚で大雑把に死んでないか確認すると、ただ1人の戦場で勝利の雄叫びを上げた。

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