第63話幼い少女の冒険譚9


 僕は逃げなかった。

 

『ダイジョウブ……』


 僕は信じていた、絶対帰ってきてくれると。

 やけに静かになった家に違和感を覚えながらも、僕は窓から外を見続ける。


『コワイ…………』


 地鳴りに轟音、大好きな二人はもう戦っているのだろうか、ひしひしと伝わる強者の気配に僕は気圧され、先程まで戦うと豪語していた自分の無謀さに気付かされる。

 自分の弱さ、そして二人の強さを改めて実感した僕は、役立たずだ……。と顔を俯かせた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――街の外れにポツンとあるギルド


「冒険者の皆さん! ガンドレアクはもうすぐそこまで来ています! 幸いまだ被害者は出ていませんが、すぐに被害者がでてしまいます! どうか街の侵入を皆様で抑えてくれませんか!」


 ギルド長の横で声を上げる秘書は、今にでも泣きそうな顔をしている。

 その顔に同調した冒険者達は、くっそ、今になってビビってきたぜ……。と顔を暗くし、部屋の空気が一気に悪くした。


「……冒険者の諸君。我々が何故冒険者をしているのか分かるか」


 そんななか長い白髭を触りながら立ち上がったギルド長は、ボロっちいこのギルドに集まった数十人の冒険者に片目を瞑って問いかける。


「んなもん、みんなを守るため、街の安全のため……」

「ああ、その通りだ。俺達は街のみんなを守るために冒険者をしている……。」

「私も。守りたいものがあるから……。」


 マインとリナの前にいた冒険者数人がそのように答え、周りも連動するように俺も、私も、と声を上げる。


「そうだな……。確かにそうだ。でもよぉ……その先の物に憧れちまってんじゃねぇのかぁ?」


 そんな意味深な言葉をニヤリとした表情で言ったギルド長に、何が言いたいんだ? と冒険者達は首を傾げる。


「ふっ、そんなもん簡単よぉ。俺達冒険者は確かに人を守る為にモンスターと戦う。間違いねぇ、だがよぉ、その先に待ってる、住人の歓声、待ってくれている恋人、家族、友達からの感謝……わかんだろぉ? 俺達はかっけぇんだよ。英雄になるんだよ。綺麗事だけで冒険者なんて出来ねぇ貪欲に強欲にいけ野郎共! 確かに敵は計り知れない程の強さだ、だがなぁ! 負けるなんてさらさら思うんじゃねぇ、かっこよくなれ! 誰よりも英雄に憧れて剣を振るい魔法を放て! 分かったかァァァァッ!!!」

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」」


 それはギルド長なりの励ましでそして感謝だった。

 誰よりも冒険者の歴が長いギルド長は、このモンスター討伐の難しさを人一倍理解している。正直勝てる未来なんて想像すら出来ない。それでも立ち上がろうとここに集まってくれた冒険者にギルド長は心の底から感動し震えていた。


「リナ……俺はやるぞ絶対に」

「分かってるって! 私もついてるんだから、無敵よ!」


 マイン達同様に闘気に満ちた冒険者達はぶっ倒して英雄になるぞぉぉ!!! と腕を上げ、さっきまでの重たい空気が嘘のように晴れ渡る。

 

「そして勇者マイン!! お前にはこれを授ける!」

「え?」


 それは街でずっと大切に保管されていた紫紺の短剣。

 輝きに満ちた短剣を持ったギルド長は、前に来たまえとマインを呼んだ。


「これは、魔法すら切れる唯一無二の剣だ、お前なら扱える筈だ使ってくれ」

「はい……。分かりました、ありがとうございます……!」

「ひゅぅぅ!! さすが勇者だなぁ! 決まってるぜぇ!」

「私達には勇者様がいるからねぇ! 負けるはずないわよ!!」


 短剣を受け取ったマインは、本当にありがとうございます。とギルド長に頭を下げた後、冒険者達の方へ振り返り声を上げた。


「俺は……、戦うのが怖くないと思ったことはありません。それでも、先程ギルド長が仰ったように、俺達は英雄になるためにいるんです、せっかくここまで足を運んだんだ……。だから……絶対に勝ちましょう。勝って誰一人欠けることなく英雄になりましょうっ!!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!」」

「ちょ、わしの時より歓声でかくないかね……」


 何故かしょんぼりするギルド長を見て笑う冒険者達の士気はこの上なく上がっていた――

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