第56話幼い少女の冒険譚2
「グラスウィングッ!!!」
辺りは深緑色の風に包まれ、目の前の大量の瓦礫が少しずつ排除されていく。
「くっそ! あいつどんだけのパワーあんだよ!!」
何度魔法を行使しても道が繋がらない歯痒さに、ランは思わず舌打ちをする。
リンが連れ去られてから何分たっただろう、無限に感じる時の流れに頭を振ったランはまだまだ! と杖に魔力を込める。
「グラスウィングッッ!!!」
ランとリンの家計は代々攻撃魔法を使う一族。
いくら幼いと言えど、ランは特に魔法の習得が早かった。
多種多様の魔法を使え、魔力も高い、町一番の期待を背負った魔法使いだ。
「はぁ、はぁ、やっと、やっと道が開けた……」
奥から吹く不気味な風を体で受け止めながら、ランは魔石灯を雑に持ち、足を進める。
足場は悪く、走る事もままならないが、幸いいつも遊んでいたおかげで何となく地形は把握出来た。
「でもやっぱり暗いと全部同じに見える……」
ただの岩壁が続いている洞窟にランは冷や汗を流しながらも、気にしてられないとどんどん奥へと駆け抜ける。
「くそ、あいつ本当にどこ行きやがった……ん?」
リンに近づいているのかも分からない不安に駆られていたその時だった。
それは先程ランが拾ったようなエメラルド色に輝く石。
ポツンと落ちているそれに何故か違和感を感じたランは足を止め、同時にリンの顔が脳裏に浮かばせた。
「道標……?」
少し先にもポツンと落ちている青色の石を見たランは、確信したように石が落ちている方に走り出す。
「さすが私の妹ね……!」
曲がり角や直線が長い所などにポツンと置かれた石がリンの場所を繋いでくれた。
「場所が分かれば走るだけ!!」
直後足に力を入れたランは、最高加速で洞窟内を駆け抜ける。
魔法【アクセルブースト】によって強化された足はそこらの上級冒険者に見劣りしないほどのスピードだった。
曲がり角では風魔法で上手くカーブし、一切スピードを緩めない、それは魔法に好かれたランだからこそ出来る技だった――
~~~~~~~~~~~~~~
それからしばらくした所で広い部屋に出たランは足を止め、行き止まりとなったこの場所であの憎たらしい姿を見つけた。
「見つけたぞクソやろぉぉぉっ!!!」
『グボォォォォ!?!?』
無駄にでかい体躯を睨んだランは今度こそ逃がさない! と短文詠唱魔法を最速で放つ。
「ウォーターナイフッッッ!」
『……! グボォォォォッッッ!!!』
カミソリのように飛ばされた水の刃は石の体を真っ二つに切り裂き、悲痛の声をあげるモンスター。
洞窟の壁にまで穴を開けた魔法を他所に、勝利を確信したランはすぐさま走り出し、リンの元へ駆け寄る。
「くっ……」
さすがのランも多量の魔力消費のせいで視界が歪むが魂気で足を動かし、何とかリンの元へたどり着く。
「リン! 早く帰る……よ…………?」
はぁ、はぁ、と肩で息をしながらしゃがみ込んだランの視界には、リンの姿はなく、変わりにパラパラと落ちた輝く石が――
「え…………」
何が起きているのと唾を飲んだランは、ふと後ろを振り返り絶句した。
「あんたたち……なん……なの…………」
『グボォォォォッッッ!』
『グボォォォォッッッ!!』
『グボォォォォッッッ!』
【おこいし】改めて、S級モンスター【エンシェントゾンビ】は、死んだ後、魂を新たな生命として宿すだけでなく、死んだ体を蘇生させることが出来る、上級冒険者が何人いても勝てない悪魔的モンスター。
それに、ずば抜けた頭脳により、【エンシェントゾンビ】は自害をし続ける。自害し魂を産み、体を蘇生する。言わば常に二倍に増える無限モンスター。
そんなモンスターを幼い二人は復活させてしまったのだ。
輝く石――【エンシェントゾンビ】の欠片を集めてしまったがために……。
「まって……こんな数、さすがに……っ!」
何体にも増えた【エンシェントゾンビ】に囲まれたランは、ただただ膝から崩れ落ちることしか出来なかった――
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