第55話幼い少女の冒険譚1
リンには双子の姉がいた――
「リーン早くこっち来なよー」
「お、お姉ちゃん……怖いよぉぉ」
新月の森。
それは満月の夜に入ると悪魔が現れるという地元では有名な森。
そんな森にリン達姉妹は、十歳という成熟しきっていない知能で、絶対に行ってはダメと何度も忠告されていたにも関わらず足を踏み入れてしまっていた。
「大丈夫大丈夫ー! すぐ取って戻ってくれば!」
「そ、そうかもだけどぉ!」
木々が風に煽られ、不気味な音に包まれる中、長髪の青髪を靡かせる姉、ランはどんどん足を進める。
元はと言えばリンが大切な杖を忘れてきたのが悪いのだが……。
「ごめんねお姉ちゃん……私が杖忘れたばっかりに……」
「いいよいいよ! お母さんに怒られたくないでしょー?」
そういって笑い返したランは、ほら着いた! と手に持っていた魔石灯を洞窟の入口に掲げた。
そこは森の中にひっそりとある洞窟。
満月が丁度射し込むその洞窟は不気味さもあるが、何処か神秘的なものも感じてしまう。
「う~。やっぱり怖い……」
「わかったわかった、お姉ちゃんがとってくるからリンはここで待ってな」
「……! そ、それはそれでやだぁぁ! お姉ちゃんといたいー!!」
「このわがまま娘め……」
はぁとため息をついたランは、駄々をこねるリンに腕を差し出し、私の腕に捕まってなさいと、結局二人で洞窟探索をすることにした――
「お姉ちゃん……大好き」
「……! はいはい、分かったからちゃんと前向いて歩きなさい!」
予想していなかったリンの甘えた言葉に照れたランは、照れ隠しをするようにちょっと怒り、ふいっとそっぽを向いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ジメッとした洞窟内は、昼とは全く違い、いつ化け物が現れてもおかしくない空気感だった。
「お昼はあんなに明るかったのに……」
「アカリゴケが光ってないだけでこんな暗いんだね……」
洞窟内にびっしりと生えたアカリゴケは今やただのコケとなっている。昼間には黄色く辺りを照らす、洞窟の太陽とも言える存在なのだが……。
「どこら辺だっけ私達がさっき遊んでたの……」
半歩先を歩くランは、魔石灯を左右に揺らしながら、どこだここ……。と辺りを見渡す。
「確か【おこいし】の近くだった気がするんだけど……リン覚えてない?」
「うーん。本当にいつの間にか手から無くなってたから……」
そっかと前を向いたランは、とりあえず【おこいし】探そと、岩壁をぺたぺたと触りながら足を進める。
ちなみに【おこいし】とは、絵本に出てくるゴブリンが怒っている時の顔にそっくりな石、という所から名付けられたものだ。
いつもその近くで綺麗な石を集めているため、ランはどうせそこら辺だろうと踏んでいたのだ。
「あれ、あそこってさっき石集めてたとこじゃない?」
「あ! あそこだあそこ! 暗くてよくわかんなかったけど、ここいっつも遊んでるとこだ!!」
ここ知ってるー! と急にテンションを上げたリンはランから離れ、ここなら怖くなーい! と走り出す。
「ちょっとー、危ないから走んないでー!」
「大丈夫大丈夫ー!」
そんな無邪気な妹にさっきの震えはどこに行ったんだか、とため息混じりに笑みを零すラン。
「お姉ちゃん見て! 私こんなとこに杖置きっぱにしてた!」
「んー?」
ギリギリ魔石灯が届く距離ではしゃぐリンは、これこれ! と不自然なほど綺麗に立っている淡い杖を指さした。
そんな満面の笑みを浮かべる妹を愛らしく思いながら、ランは少し大きめな声で返事をした。
「良かったねすぐ見つかってー! 早く取って戻ってきなさーい!」
「はーい!」
その場に立ちどまりよかったよかったと、ホッと息を吐いたランは、ふと足元にあったキラキラ光る石を見て、これ後でリンにあげるか、と拾い上げた。
「本当、こういうの好きだからなぁリンは」
エメラルド色に輝く石をポケットにしまい、喜ぶかなぁとリンの方を振り返った時だった。
「お姉ちゃぁぁぁん!!!」
『グボォォォォッッッ!!!』
「……! リンッ!!!」
それは突如として現れた石の化け物がリンごと杖を持ち上げている姿。
何が起きた! と反射的に駆けだしたランは懐にしまっていた短杖を取り出し、石の化け物に向け詠唱を開始する――
「蒼天の琴吹――」
が、
『グボォォォォッッッッッッッ!!!』
「お姉ちゃ――!!」
直後余っていた左腕で天井を殴った化け物は、これ以上近づかせないとばかりに大量の瓦礫を落とし、ランの侵入を防いだ。
「……っ! っざけんじゃねぇぞぉぉぉぉっ!!!!!!」
いやらしい攻撃に怒ったランは、ぶっ殺す!!!と杖を固く握り精神を集中させる。
「こんな石すぐにぶっ飛ばして、すぐに助けてあげるからね、リン!!」
こうして幼い少女による、大切な者を救うための大きな戦いが始まった――
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