第44話3人の冒険者


「ルカ逃げきれたかな……」


?エリア――


 がむしゃらに逃げ続けた俺とミルクは、肩で息をしながら休憩レストをとっていた。


「心配だけど、リンさんとナナミさんを守らないと、安心して……戦えないよね……」


 そう言って、やれることやらなきゃと俯くミルクに対し、そうだな……。と、俺は背中に背負うナナミを横目に、早く起きろよなぁ、とミルクに笑顔を見せる。

 それが今俺に出来る最低限の行動だった。


「ふふ、リンさんも寝顔が可愛い、よしよーし、お母さんですよぉ」

「バブいなおい」


 ほらこの顔見てみと俺が指を指すと、ミルクは小さなリンを抱き抱え、あやし始めた。その姿は聖母その者……。

 

「今死んだらミルクの子供に転生したりしねぇかな」

「何言ってるのリクくん……」


 本気でその発言は……。と嫌な顔をするミルクに真顔になりながら、さて、これからどうする? と話を匠にすり替える大久保陸十八歳。


「ルカさんがさっき言ってた通り装備集めしよう」

 

 それは先程ルカが言っていた同業者に助けを求めるという作戦。今の俺達には少しでも戦闘力が欲しい。


「ここにいても何も変わらないしな、よし、行くか!」

「うん!」


 正直寝たいし、現実逃避したいけど、俺とミルクは不器用な笑みを浮かべた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「リクくん、あれ……」

「あぁ、死体……だな」


 しばらくして、俺達は朽ち果てた冒険者三名を見つけた。

 ちなみにここまでモンスターに一体・・も出会わずに来れた。それが先程のピエロのおかげなのかは知らないが、何にせよめちゃくちゃ助かった。


「うっ……やっぱ臭いきついな。てかこいつら……焼けて――」


 ナナミを下ろし、冒険者に近づいた俺はその焼きただれた顔に目を覆いたくなった。

 

「皆何かに燃やされたのか……?」


 三人とも顔は原型を留めておらず、装備品なんかもほとんど使い物にならなくなっていた。

 

「リクくん、なんかあった?」


 少し離れたところでナナミとリンを守るミルクが声をかけてくるが、俺はダメだわと首を横に振る。


「とりあえずゆっくり寝てくれ……。もし俺が助かったら埋葬しに来る」


 そういってミルクの方に戻ろうとした時、キランと一人の冒険者の胸元が輝いた。


「なんだこれ……」


 失礼します。と胸元に被さっていた薄い布をめくると、真紅のナイフが深部まで突き刺さっていた。


「ちょっとこれを使うのは……でも……」


 深々と突き刺さるナイフに顔を顰めながら、俺は生き残るためだと意を決して真紅のナイフを勢い良く抜き取る。同時に溢れ出る赤黒い血が生きていた証を示し、俺は目を背けることなく眺め続けた。


「これが……冒険するってことか……」


 ポタポタと血が滴るナイフを軽く振りながら改めて冒険者の意義を知った俺は、朽ち果てた冒険者の布でナイフを巻き、危なくないようにレギンスと腰の間に挟む。


「絶対あなた達の分まで生き残ります……」


 これまでこのダンジョンでどれ程人が亡くなったのか、そんな事を考えるだけで足がすくみ、目眩を起こしそうになる。

 

「怖すぎんだろダンジョン」


 改めて手を合わせ、三人に礼をした後、俺は今も息をする三人の元へ急いで戻った――



 

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