第37話白銀の狼


「はぁ、はぁ、ルカ……ルカ!」

「何?」

「いやそんなクールな顔されても!」

「ど、どうするんですか、ルカさん!」

「大丈夫ですよミルクさん。私が片付けます」

「「いやそんなクールな顔されても!」」


――四階層第四エリア


 もともと安置セーフティエリアであった小部屋ルームは抜けれたものの、第四エリアはまだまだ続く。

 ちなみに、三階層への階段は第三エリアに存在するのだが、そこに行くためには第五エリア、第六エリアか第二エリアを通る必要がある。四階層という事もあり、一つ一つのエリアの大きさも三階層とは比べ物にならないほどの大きさの為、容易に先には進めない。


「まだ第五エリアにはつかないのか!?」

「慌てないでリクさん。もう少しで貯まりますから」

「早くしてくれぇぇ!!!」


 限界だァァ! とナナミをおんぶしながら死に物狂いでダンジョンを駆け抜けるリクと、私ももう限界いぃぃ! とリンを背負うミルク。

 一体この三人に何が起きているのか、


 それは……。



『『『ゲアアァァァァッッッ!!!』』』



 仲間をオーブに変えられた復讐とでも言うべきだろうか……。


『ゲァァァァ!』

『ゲアアァァァァッッッ!』

『ゲェァァァ!!!』


 数え切れないほどの【スパイクリザード】。



 ――怪物集団モンスターパーティ



「なんでこんなにこの化け物いるんだよ!」


 もうだめぇ! と隣で涙目になるミルクを後ろから支えながら、リクはそう叫び散らす。


「たまにある事ですが……この数はさすがに初めてですね……」


 前を走るルカが首筋に汗を流しているのを見たリクは、後ろに迫る数多のモンスターを感じ取り、ひいいいいぃ! と口の隙間から息と共に情けない声を漏らす。


「ルカさん! その……その貯まるって奴が溜まったら、何とかなるんですよね!!」


 息を切らしながらルカに声をかけるミルクは、申し訳ない程度に纏っている布を汗でぐっしょりと濡らしながら足を必死に動かし続ける。


「はい、何とかなります。それに、もう貯まりました……やりましょう」

「おおおおお!! 見せてくれよその秘密兵器ってやつを!」


 そう言ってはぁ、はぁと息を切らすミルクとリクの後ろまで一気に後退したルカは、手元にある白銀の槍をブンブン振り回しながら【スパイクリザード】の前に立つ。


「秘密兵器と言ってもあまり便利では無いですからね……あまり期待しないでくださいよっ!」

「「お願いしますっ!!」」


『『ゲァァァァァァァッッッ!』』


 モンスターパーティから逃げると同時に、秘密兵器を行使する事を宣言していたルカを信じ続けたリクとミルクは、希望の眼差しでルカの背中を凝視する。


「我が命ずる――白銀のろうよ……」

『『ゲァァァァァァァッッッ!』』


 先程とは打って変わって直立不動のルカは、飛びかかってくる【スパイクリザード】をも無視して目を閉じ、全神経を槍に向ける。


「おいおいミルク、あれ何やってるか分かるか?」

「うーん、分からないけど、ただ……」



 そう言って唾を飲んだミルクは小さく、



 この世の者じゃないものが来る。


 

 ただ一言そう残した――



「ありったけ喰らいなさい、いいえ、喰らえ――影狼槍シャドーウルフ



 刹那――


 

 ルカの白銀の槍は白い光と共に数多の数に分裂しながら、凶暴な影狼を宿し、そして、


『ゲァァァァ!?』

『ゲァァッッッ!?』

『ゲェェァァァッッッ!?』


 無数とも思えたモンスターの数と同等に分裂した槍は、まるで狼の様に直進し、一瞬にして【スパイクリザード】の身中に風穴を開ける。

 断末魔さえも置き去りにするそのやり達は、全滅を目的にひたすらに駆け回り、数秒後、あれ程までに居た【スパイクリザード】は一匹残らず姿を消した。

 

「嘘だろ……なんだよあのチート技……」


 ナナミをおぶりながら汗を流すリクは、その化け物じみた技に目を奪われる。

 強すぎるだろ、と口を開けるリクの横で、無言のまま見入ることしか出来ないミルクもまた、ゴクリと唾を飲んだ。


「ふぅ、これでとりあえず大丈夫ですね……全滅させましたから」

「「いや、そんなクールに言われても……」」


 もうどっちがモンスターか分からないルカの顔だけはいつも通り涼しかった――




 そう、顔だけは――


 


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