第19話英雄魔道士の一撃
「――風を斬れ」
加速魔法アウトバーンの詠唱三回目。
想像通りリクの魔法発動には時間がかかっていた。
『ゴォォォッッッ!』
「くっ!」
ドスンッという音と共に地面を抉る
リクの体力、怪我の具合は限界を迎えていた。
一度かわしそびれた横殴りにより、かすったにせよ脇腹を壮大に強打。肋骨は数本持っていかれているだろう……。
脚に力を入れる度に激痛が走る。体が悲鳴をあげ、数多の汗がぐっしょりと溢れかえるがリクは止まらない。
一度止まれば二度と走り出せないとリク本人が一番理解していたからだ。
「――奏さえも切り捨てるその
整える。
【サンドゴーレム】の足の間を縫うように駆け回るリクは、全身全霊で呼吸を沈める。
決して荒げたりしない。荒げれば痛みが走り、体力が減る。その末路は無様な不発のみ、そんな終着点を迎えてはいけない。
大丈夫、俺ならできる。と己を鼓舞しつつも冷静かつ沈着に、リクは右手の手帳を読み進める――
「――訪れる精霊の加護と共に行進せよ」
最大限に
そして遂にその時がやってきた。
(あと一節……)
最後の行に目を通したリクは少々の笑みを浮かべたあと、決して油断しない。どこにも隙を見せない。やり遂げる。この魔法だけは絶対にやり遂げる! と意識を途切らす事無く、その黒い瞳を震わせた。
先程ちらと見た時ミルクは目を閉じており、息をしているのかすら分からなかった。
時間が無い。それはリクも同じこと、これで決めれなかったら終わる。
(大丈夫。何度も同じところを読んだせいで噛む回数が減ってきてる。いける!)
リクは最後の
「――波をも捨ておき、波紋を広げる神速のその域へ――」
『ゴォォ!?』
やった……。
そんな言葉が自ずと零れ、リクの心に安堵が広がる。
詠唱完了――
この土壇場で仮装の冒険者は冒険者へと姿を変えた。そう、進化したのだ――
「これでお前も終わりだぞ……食らえっ――!」
『ゴォォォォォォァァァ!!!』
リクによる魔力の輝き、魔力の収縮を感じ取った【サンドゴーレム】は逃げ場のない事に気づき、悲鳴とも取れる叫びをあげる。
殺れる。
加速するその力があれば生命の糸を切断する糸口が見つかるかもしれない。この長い戦いに終止符を打てるかもしれない。
そんな光を前に、リクは全力で叫んだッッッ!
「アウトバーンッッッ!!」
『ゴォァァァッッッ!!』
直後――
神速と化したリクの体はあっという間に【サンドゴーレム】との距離を詰め、赤眼と視線を交わしたあとリクは、
この世から
最後の一節。
リクは《身中を満たす》という詠唱を飛ばし読みしていた。
結果起きたのは
文字通り体に追いつかないほどの速度――神速を持ったリクの体は分子レベルまで分解され、
消滅した――
つまり。
呆気なく死んだのだ――
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