スク水少女は距離が近い
天ヶ瀬衣那
初めての聖域
「……見て」
意味のない英語の授業中の教室で、一番後ろの窓際に座る僕の隣でいつものようにこっそりと声をかけてきて、スカートを捲りスク水を見せてくる同級生、紺野水希。
コーラルピンクに染めた肩まで長いウルフカットの髪型に、切れ長の目、見た目からクールな水希さんはクラスでも人気があるのに、今日も相変わらず僕に絡んでくる。
そう、からかわれてることはわかってるのにいつも見てしまう。どの男子高生もこういう状況がくれば見るに決まってる。それに、見せてきてるんだから犯罪ではない。
そう言い聞かせながら、水希の方に軽く顔を向ける。
今日もスク水だった。
どうして下着を着けていないのかはわからないが、確かにスク水だった。
その日の放課後。
靴を履き替えていると、ふと机の中に忘れ物をしていたことに気づき僕は教室まで戻ることにした。
普段は気をつけているから忘れることはないのに、もう老化でも始まっているのかと軽く苛立ちながら教室の後ろの方の扉を開けた。
すると、何故か水希が僕の席で頬杖をつきながら窓の外を見ている光景が目に飛び込んできた。
「……水希?」
無意識に名前を呼ぶと、ゆっくりと僕の方に振り向いた。
「呼び捨てなんだ」
まぁいいけど、と微笑む水希。
「何か用なの?」
「忘れ物を取りに来たんだけど」
「それってこれのこと?」
言いながら机の中からホッチキスで留めてある二枚組の紙を引っ張り出すとそれを顔の横でペラペラと揺らしながら見せてきた。
「正しくそれ」
受け取ろうと席まで行くと、水希はその紙に目を通し始めた。
「これ、なんの楽譜?」
「ひ、秘密?」
それがなにかとは言えなかった。
「ふふっ、なにそれ?」
と、口元に手を当て笑い出す水希。
突然何かひらめいたように、席から立ち上がった。
「じゃあさ、私も秘密を教えるから教えてよ、それまで返さないから」
決まりっ! と人差し指を僕の胸に差してきた。
その場で固まっている僕をよそに隣の席からスクールバッグを背負い、行くよ、と帰宅を促してくる。
こうして、スク水を見せてくるだけの関係だった僕と水希は一緒に帰ることになった。
✕ ✕ ✕
夕日に照らされた通学路は、赤く照らされていた。
どんな話をすればいいのかわからず、校門を出てからは無言だった。
ただ、気になってチラチラと横目で隣で歩く水希を見ていると、気づかれたようで、緊張してるの? と、声をかけてきた。
「緊張はしてない」
「じゃあ見惚れてた?」
「……いや」
不自然な間を空けて答えたせいで、水希は小さく笑いだした。
「バレバレだよ、それ」
「う、うるさいな、自覚あるだろ、クラスでも人気があるくせに」
そう反論すると、水希の表情が変わった。
「いいよ、あんな上辺だけの奴らのことは」
カースト上位とも仲の良い水希からは驚くぐらい興味のないほど表情のない声音だった。
その言葉の意味がわからず見つめていると、さっきと同じ表情に戻って話しかけてきた。
「あのさ、避けてるみたいで聞いてこないから聞くけど、気にならないの?」
それはスカートを捲って見せてくることにほかない。
「いつもどうして見せてくるんだろうって、気にはなってる」
期待通りの答えだったのか、ニンマリとした表情を浮かべていた。
「やっぱり気にしてくれてたんだね」
「誰だってあんなことされたら気になると思うけど」
「岬にしかしないよ」
それはどういうこと……?
「私と岬って似てるでしょ、根幹っていうか、ひとり狼なところ」
聞こうとして口を開きかけた瞬間、水希が僕をどういう目で見ていたのかがわかった。
「秘密、教えるからこっち来て」
いつもは右に曲がっていくT字路を左に十分ほど歩いていく。
「ここ」
そう言われて着いたのは北欧っぽい外見の家だった。表札には紺野と書かれている。
「水希の家?」
「そうだよ、じゃあ入って」
ためらいもなく門を押し開けて、手招きしてくる。
一体どんな秘密を明かされるのか、はたまた何をされるのか、淡い期待を抱きつつ、僕は門をくぐった。
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