廃園前夜

 ……園長先生に呼ばれたのは、卒園試験が近づいてきた頃だった。試験に合格すれば、創造主候補生として、幾多の困難な使命ミッションを果たし、成功へと導いていけば、やがてえある創造主になれるのだった。

「そんなに都合よくはいかないわよ」

 開口一番、園長のハジメ先生は意地の悪い口調で薄笑った。

「この学園は閉鎖されるかもしれないのよ」

「ええっ? 本当ですか?」

「創造主候補生最高評議会が決定したの。いつまでっても、優秀な創造主候補生を輩出はいしゅつできないのなら、もう存在価値がないって、みなさん、お怒りなのよ」


 どこかしら園長先生はイライラして落ち着きがなかった。

「マズから、あなたに伝言よ!」

 ふいに園長先生がぼくに告げた。

「え? マズって誰のことですか?」

「なに言ってるの! 長い間、あなただけの専任として一緒に過ごしてきたでしょ?」

「あ! あの先生は……マズっていうニックネームなんですか?」

「だ、か、ら、いつも、あたしが強調してきたでしょ? 『マズ、カイより、ハジメよ!』。あたしたち三人は仲のいい、クラスメイトだったのよ……マズとカイの二人より、あたしよ、っていう意味。マズは、いつも、あたしのこと、慎重すぎるって笑っていたわ。でも……あたしはマズのことが好きになって……」


 一体全体、園長のハジメ先生は何を語ろうとしているのか……ぼくは驚いた。というより、漠然ばくぜんと想像していた神生(註︰人生のこと)というものが、ふいに現実味をともなって頭の中に浮かび上がってきた。

 ハジメ先生を、カイ様、そしてマズ先生の三人は、語ってはいけない秘密を共有しているように感じたのだ。それこそが、前夜祭の謎解明につながるのではないだろうか。ふと、そんなことをおもった。


「園長先生、……マズ先生からのぼくへの伝言は、どんな内容なのでしょう?」

「ああ、それね……ええと、『カタチにとらわらるな、自分らしくあれ』だったかしら。マズったら、こうなの。なんか、そらぞらしく、ワンフレーズにこだわるクセがあって……そんなところが好きだったけど」

「・・・・・?」

「言っちゃうけど、あたしは、マズのことが好きだった……。でも、マズはカイのことが好きで……カイはあたしに惚れていたようだった」

「・・・・・!」


 なるほど、三者三様というフレーズは、ここから生まれたのかもしれない……などと、ぼくは他人事ひとごとのように考えていた。おそらく、廃園が近いという衝撃が、園長先生の秘密の扉を押し開けてしまったのかもしれない。


「……マズは忘れてしまっているかもだけど、当時、こんなことを言ってたの。いつか、何十光年、何百光年時間ののちに、三人が再会できればいいね、そのとき、何かが起こるかも……って。あたしがこの学園に園長として着任きたときに、あたしたち三人が再会できることを期待して、その前夜という意味でイベントをかんがえたのよ」


 ついに前夜祭の発祥の秘密が明らかになった。マズ、カイ、ハジメの三創造主候補生の再会が“ 本祭 ”ということなのだろう。

 なんだ、そんなことか。わかってしまえば、拍子抜けしてしまうことは往々にしてある。でも、本祭も観たいなとぼくはおもった。それを告げると、園長先生はキリッと表情を戻した。


「あ、の、ね、そんなことより、あなた、卒園試験、がんばらないと。この学園最後の試験になるかもなんだから」


 突然、現実に引き戻されてぼくには嘆息しか出なかった。いつもならそんな投げやりなぼくの態度を叱りつける園長先生は、このときばかりは何も言わなかった。その態度こそ、最大のプレッシャーをぼくに与えてやまないのだった……。

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