決勝戦 1

 実況

・決勝戦第1マッチ勝者はSTRADAです! 相手チームを一切近寄らせない、精密射撃で追い詰め、ノーダメージでの勝利となりました! 大柳さん、あのODDS&ENDSを完封しきったこの試合いかがだったでしょうか?


 解説

・素晴らしいとしか言いようがない、最初から最後まで理想論を並べたような試合でしたね。ここまで完璧な立ち回りをされてしまうと、私としても何も解説することが無くなってしまいますね




 1マッチ目が終了する。

 なにもやりたいことが出来ずに、誰がどう見ても、あちらの圧勝で試合が終わった。いや、なにをしたいかも分からずに、なにもしない間に終わった。


 絶望

 

 俺の今の頭の中にはこれしかない。自分がやりたかったことは一切できず、向こうは、全て思い通り。普段なら、すぐに反省と改善が頭に浮かんできて、次の作戦が自然に形になっていくのだが、今は一切頭が働かない。

 俺がモニターを虚ろな目で見続けていると、俺の付けているヘットフォンが強引に外される。それと同時に、力ずよく肩を掴まれ椅子ごと勢いよく左に回転させられた。

 今俺の目の前にあるは、モニターではなくタイガの顔だった。


「ふざけるな! いつまでその調子でいるつもりだ!」


 タイガが俺の頬を両手で平手打ちするかのように挟む。タイガの真剣な顔は何度も見て来たし、つい先日怒っている所を見た。

 それを今鼻先ほどの距離で見ている。


「パソコンの前に座ったからには、試合が始まったからには集中しろ! 他のこと全部忘れて、勝つためだけに全力を注げ!」


 タイガの俺の頬を挟む手の力が徐々に強くなっていく。


「よく見ろ! 今あなたの周りにいる人は誰だ!? ここまで誰と一緒に戦ってきた!」


 俺に対して、いや、俺達に対して、こんなにも強い言葉を使うのは、初めての経験で、ただ真剣な眼差しを見続けることしかできない。

 ただただ聞こえた声が頭の中で反響する。


「今あなたは一人じゃない! 僕たちがいる。なんでそれを見ようとしない!」


 見ようとしない? いや、そんなことは決してない。俺は自分だけの力で、ここまで上がってきたなんて、一度も思ったことは無い。みんなの力があってこそ、勝ち上がってこれたんだ。

 それに、3人がいなければ、今の俺はここに存在すらしていない。

 そんな大事なことを、忘れるわけがないじゃないか。


「いつまで過去に縛られているんだ! そこから脱したから、またゲームの世界に戻ってきたんだろ!」


 ここでようやくタイガが言わんとしていることが理解できた。タイガ言っているのは、俺の感情の矛先がチームメンバーではなく、に向いていることを指しているのだ。

 3人とは戦っている最中も、見ている物が違ったのだ。


「ここで負ければ、あなたはまたあの何もない日常に戻ることになるぞ! 選んだのではなく、選ばされた結果で!」


 俺は、選んでこの世界に戻ってきたというのに、また逃げることになるのか? 俺以外の要因のせいで。

 そんなの絶対に嫌だ。


「なんのためにここに戻ってきた! 何をするためにここに戻ってきた!」


 俺は、勝つために、ここに。

 いや、違う。純粋にゲームを楽しむため。ただただ楽しいゲームに夢中で本気になりたかったからだ。

 そんなこと、二度と許されないと思っていたし、後悔することはあれど、戻ってくることなんて、これぽっちも想像していなかった。

 それにも関わらず、俺は自分のことだけに必死になっていた。目の前の戦闘もおざなりになり、敵ではなく、あいつらとの過去ばかりを追っていた。


「見てろ! 僕が変えてやる! 行くよ! テツ、ニシ!」


 タイガが俺の頬から手を離し、PCに向かう。

 今この光景を全ての人に見られていたのだろう。ただ、そんなことタイガには関係なく、この舞台に上がったからには勝つ。

 俺の為に、今タイガは本気で俺の背中を叩いてくれたのだ。


「おお!」「ええ!」


 作戦も曖昧で、伝達ミス、中途半端な行動。それの全てが俺の集中力不足が原因で起きている。とても大きい1勝を相手に与えてしまった。


 実況

・ODDS&ENDSのチームは少しトラブルでしょうか? 大丈夫ですかね?


 解説

・そうですね。ちょっとヴィクター選手の調子が上がりきっていない感じだったので、タイガ選手が喝を入れたところですかね?


 実況

・なるほど。オフラインならではの光景が見られましたね


 解説

・そうですね。選手みんな真剣にやっているので、どうしても議論が白熱したり言葉が強くなってしまうんですが、ある意味それは本気だから見れることなんですよね


 実況

・それが日本一を決める決勝戦ともなればなおさらですよね。ある意味生で見れるのは貴重な経験かもしれませんね。それではそろそろ準備が整ったようなので、第2マッチを開始したいと思います。


 第2マッチがスタートした。



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