準決勝開始 3

 実況

・第2マッチの勝者はODDS&ENDS!!! 危機的状況をひっくり返し、見事2連勝です! 今のマッチいかがでしたか大柳さん


「あっぶねー! まじであぶねー!」


 最後気は張り続けていたテツが、やっと息を吐けたと言わんばかりに、大声を出す。

 本当になんとかギリギリで勝利収めることができた。結果としてこれで2連勝だが、なぜだろう? 全然安心できない。俺達が追い込んでいるはずなのに、気持ちとしては、追い込まれているような気分だ。


 解説

・こちらからは、試合中の全体図が見えているのですが、タイガ選手が策に引っ掛かった時は、さすがに今回はNEO SPOTの勝ちだと思ったんですよね。それをまさかあの状況で五分に持っていくとは。正直あれはアツかったですね


「ごめんなさい。僕がミスしちゃって」


「いや、あれは仕方がないし、むしろ仕事したほうだと思うよ」


 タイガはかなり落ち込んでいるようだ。しかし、二人に待ち構えられていて、一人道ずれにしただけ大した成果だ。隣に座っているニシが肩を叩きながら、同じことを言っている。


 実況

・どうやったらあの状況で一人持っていけるんですかね?


 解説

・いや、あれが出来るのは日本でタイガ選手だけなんじゃないですか?


「ほら、聞けタイガ。解説の人も褒めてるぞ、お前のこと凄いって言ってるぞ」


 なんだか、お父さんがいじけた子どもを相手にしている様子を見ているようだ。


「褒められたくってやってるわけじゃない」


「おお、お前なかなかいいこと言うな」


 慰めようとしているニシに対して、そんななことお構いなしと言わんばかりの言動だ。


「そうだ、タイガもっと強気になれ、お前が一番強いんだから、なんにも臆することは無いぞ」


 事実、自分で思っている程タイガは酷くない。これは、俺のオーダーミスだ。その責任を俺ではなく自分に科しているのだ。これは今後の課題でもあるかもしれないな。今までも感じたことはあったが、みんな俺に甘い所がある。

 さっきのミスは俺が責められておかしくない場面だ。


 実況

・そのおかげもあり、あと1勝で勝負が決まります。NEO SPOTは追い込まれた形になりましたが、3マッチ目の展開はどうなりますかね?


 解説

・そうですね。結果として2連勝にはなっていますが、決して内容は負けていないんですよね。それどころか、作戦勝ちしているのはNEO SPOTの方だと思います。


 実況

・たしかに、先にアドバンテージを取れていますね。


 解説

・1個目は良いんですけど、その結果が予想通りにいかなかったときの行動、定まっていないように感じます。だから、自力の方が勝るODDS&ENDSにひっくり返されてしまうんですね。


 実況

・なるほど。とっさの対応力はODDS&ENDSの方が上ってことですね


 解説

・はい。後はODDS&ENDSはヴィクター選手のオーダーも勿論素晴らしいんですけど、それ以上に、個々の選手が自分で瞬時に考えて行動できている点もいいですよね。そういう小さいことが積み重なっての結果だと思います。


 実況

・チーム競技の強みを生かしきることが大事なことなんですね


 でも、あそこで一人やれていなかったら、今度は確実に負けていた。こっちの攻めっけをうまく利用された形だ。

 俺も、作戦の組み立てや、即時のオーダーには自身があったが、正直俺以上だ。間違いなく日本トップの実力の持ち主である。戦闘中にあそこまで、できる自信がない。

 彼の頭の中でどう作戦が組み上がっているのか見てみたい。

 1マッチ目とは違い、大した喜びの声を上げずに、皆が椅子に座りっぱなしな状態を見ると、今のマッチがいかに危なかったかが物語っている。


「あと一勝か」


 頭の中で思ったことが、つい口の中からでてしまった。


「ここで、後2回負けても大丈夫だとか思ったら負けるんだろうな」


「お前、それは思っても言うなよ」


 テツが急にとんでもないことを、言い出したので、つい勢いよく横を見てしまった。そして、俺とほぼ同時にニシも反応する。心に余裕があることは良いことだが、それは余裕ではなく慢心だぞ。


「フラグ建てたね」


 そろそろ試合が始まるため、少し元気になり始めてきたタイガが、横から口にする。


「いや、それも言っちゃだめだろ」


 ツッコミ役に回っているニシは見ると、いつも通りだなと感じる一方で、準決勝の舞台で、配信にも載ってるし、目の前に観客の人もいるのに、いつも通りの俺達だ。始まる前は、緊張とか不安とかあった色々あったはずなのに、そんなものどこかに忘れてきているようだ。

 それは、試合が始まったからというのもあるだろようが、それよりも、横に向けば皆がいることに、想像以上に力を貰っている。


「今のところ、結果上手くいってるから、次も大丈夫。って言うのはちょっとあれだけど、大丈夫俺たちは勝てるよ」


 相手も十分強いが、俺たちの方がもっと強い。ここ2回で見せたことをまたやればいいだけだ。


「ただ、向こうも追い詰められて後が無いから、多少無理してでも強引に来るかもしれないから、慌てず冷静にな」


「はい!」「おう!」「ええ!」




 実況

 ・これで試合が終わるのか? それとも粘りを見せるのか想いと想いがぶつかり合う。第3マッチがスタートです




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る