帰省 4

 今朝は慌ただしく起きた。


 父さんと昨日の夜遅くまで起きていたため、目が覚めたら、もう、昼の12時だった。結局、俺はリビングの椅子で、父さんは居間のソファで寝た。寝て起きたはずなのに、寝る前以上に疲れが出ているような気がする。

 よくよく考えれば、昨日急に新幹線に乗って実家まで帰ってきて、しかも椅子で寝てるようじゃ、疲れなど取れるはずがない。


 そんな俺は今何をしているかというと、父さんが入れてくれた風呂に入っている。その間父さんは母さんの入院の準備をして、俺が出たら交代することになっている。

 そろそろ試合が、始まる頃だが、タイガから終わったら必ず結果の連絡を入れるから、心配するなと言われているため、俺は今自分がすべきことをする。

 ここに来る前は、皆のことが心配で仕方が無かったが、今は絶対に大丈夫だと確信している。なぜなら俺が一番、3人の強さを知っていて、その3人がと言っているのだから。

 俺は風呂から上がり、体をふいて自室に向かう。昨日の夜に自分の服があるかどうかを確認しそびれたからだ。部屋に入り、クローゼットを開けると、置きっぱなしだった服がちょうどあった。この歳になれば、成長で服が着られないと、言うことも無いので、安心だ。ずっと、クローゼットの中に入っていたため、少し湿気臭いような気もするが、まあしょうがないだろう。服に着替え、父さんに声をかける。


「父さん、空いたよ」


「おお、分かった」


「今どんな感じ?」


「持っていく物の準備は、全部終わっている。一応確認しておいてもらえるか? で、後は書類なんだけど、ちょっと分からないところがあるから、見てもらえると助かる」


「おっけー。分かった。後はやっておくよ」


 そう言って、父さんは服を脱ぎながら風呂場へ行った。準備を引き継ぐために、進行状況を確認したが、ほとんど終わっているようだ。


 言われた通り、荷物の確認をするが、特に問題はない。もし、なにか追加で必要なものがあったら、その都度持っていけばいいだろう。書類の方に目を通すが、ここに一筆入れるのは、俺じゃなくて父さんだろうから、風呂から出てきたら教えればいいかな? 入院費も窓口での支払いのようだから、特に振り込みの準備をする必要もなさそうだ。母さんが、どのくらい入院するかも分からないが。


「大丈夫そうか?」


「あー、びっくりした。もう出てきたの? 早くね?」


 急に後ろから声がしたから、驚いてしまった。そういえば、父さんは風呂から出るのが物凄く早い人だった。その癖して、熱い風呂が好きな人だ。

 そう言えば、俺が入るときは、ちょうどいい温度だったな。


「で、大丈夫だったか?」


「ああ、荷物は平気だね。書類はいくつか名前を書くところがあるくらい」


 俺は書類を持ち、父さんに場所を教える。それを見て、ささっと書き込んだ。


「よし、じゃあ、病院に行くとするか」


「そうだね」


 そう言って俺は母さんの荷物を持って、父さんは車の鍵と書類を持って家を出てる。俺は、荷物を後部座席に置いて、助手席に乗る。


「椅子で寝てたんじゃ、全然疲れがとれなかっただろう。病院に着くまで寝てていいぞ」


 車を出して、すぐに父さんがそう言ってきた。体はとんでもなく怠さを感じる物の、眠気はそこまで無い。それに病院に着くまでは、せいぜい30分ほどだし、それに俺には起きていなければいけない理由がある。


「いや、そういうわけにもいかないんだよね」


「なんかあるのか?」


「チームメンバーから連絡が来るのを待ってる」


「なんの?」


「今日の大会の結果」


「は!? 今日大会があるのか?」


 急に声が大きくなった。なんなら横目でちらちら、こちらを見てきそうな勢いだ。


「うん」


「出なくて、大丈夫だったのか?」


「絶対に勝ってくるって言われたから、大丈夫」


「それ、なんの大会? もし、今回負けても大丈夫なやつなのか?」


 今まではなら、ここまで俺がやっていることを、直接聞いてこなかったが、昨日の会話でそのストッパーが無くなったのかな?


「フォージっていう、今かなり流行っているゲームの世界大会を賭けた、日本予選の準々決勝。今日勝てばオフラインでの準決勝、決勝が2週間後にある。負けたらその時点で終わり」


 ゲームなんか一切やらないから、きっと何を言っているか分からないと思うが、きちんと話を聞いてくれている。


「そんな大事な大会なのに、来てくれてありがとうな」


 父さんは、さっきまでは凄く慌てていたものの、少し冷静になっていた。そんな、感謝されることでは全くない。これは、ゲームだからではなく、自分の家族が大変だというときに、駆けつけるのは息子として当然のことだ。

 もしかしたら、ニシは俺に対して言いたいことがあったかもしれない。なら親じゃなくて、ゲームを選べよと。だけど、それでも、送り出してくれた。


「大丈夫。絶対に負けないよ。俺のチームメンバーは強いから」


 その後は、昨日とは反対で、俺が父さんの前でひたすら話し続けた。タイガとの出会いから、つい昨日会ったことまで。恐らく、父さんからすれば、自慢話を聞かされ続けていたと思う。言葉が詰まらない程、俺は3人のことが好きなのだ。

 思えば、会社を辞めてからは、あの3人以外の人とちゃんと話すのは、初めてかもしれない。俺はずっと、話したかったのだろう。今一緒に夢を追っている人達が、どれほどの俺に、喜びと楽しみを与えてくれている人間かを。この歳になってから友達の自慢話をする日が、したいと思える日が来るとは思わなかった。


 そんな話をしていると、病院に着いた。

 少し離れた駐車場に車を停めて、荷物を持って歩いていく。昨日とは違い、入り口を通ると中は明るく、多くの人がいる。普通に生活していると、目に入りずらいが病院を必要としている人が、想像よりも多くいることに驚く。


 昨日と同じ道を通り、母さんのいる病室に向かう。

 病室に入ると、母さんの姿が見えた。


「母さん」


 病室には、他の患者さんもいるのでなるべく声の大きさはおさえる。上から見下ろす形にはなるが、昨日よりは顔色も良さそうだ。


「ああ、ありがとうね。いろいろごめんね。心配させて」


「無事でよかったよ。父さんから連絡来たときは、驚いたけど」


「調子はどうだ?」


「手術で切った所とかは痛むし、凄い疲れがたまっている感じで、体は重いけど、それ以外は特に。昨日は麻酔が効いてたけど、ちゃんと来てくれたこと分かったてたからね」


 母さんは、声を抑えているのではなく、出しづらいのだろう。少しかすれてもいる声は聞き取りづらいが、昨日の今日で、そのくらいなら良い方なのだろう。


「2、3日様子を見たら、病室も普通の場所に移動できるみたい」


 それまでは、荷物は必要最低限と言われたので、服と日用品くらいしか持ってきていないが、病室を移ったら、なにか暇つぶしの道具でも持ってきてあげよう。


「いつまで居られるの?」


 母さんが、顔だけを動かして俺の方を見る。


「まだ決めてない」


 父さんに話したことを、今ここ話す必要は無いよな。


「そう、じゃあ要らられるだけ、お父さんと居てあげて。きっと家で1人だと寂しいだろうから」


「分かった。母さんにも、また会いに来るよ」


 少し話をした後に、病室を後にする。想像よりも、母さんの調子が良さそうでよかった。

 父さんは書類を提出するために、窓口に向かった。俺はタイガから連絡が来ていないかを確認したかったため、先に病院を出た。


 入り口を出て、すぐにあるベンチに腰をかけ、スマホを取り出すと、一見通知があった。


「よっっっしゃあああ!!!」


 俺は自分の体の前で、小さくガッツポーズをした後、そのまま拳を上に突きあげる。


 画面に映し出されたのは、メッセージではなく、準決勝進出を示したトーナメント表だった。























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