本格始動! 2

 あの日、俺はイカゲソ丸からヴィクターに名前を変更した。


 ただ、名前を変えるだけだと、同じ名前の人になってしまう。そのため、過去の自分と同一人物だということも伝えた。

 すると驚くことに、多少なりの反響があったのだ。こんな人間をいつまでも覚えてくれている人がいることに、驚きを隠せなかった。


 中にはファンです。ずっと待ってましたと言ってくれる人までいた。それを見たタイガは、「唯一気づいたのが、僕だったで一番のファンは、僕ですけどね」とか、良く分からないマウントを取っていた。

 でも、タイガが俺を見つけてくれなかったら、もう一度大会に出るなんてことは絶対にしていなかったから、あながち間違いではない。


「だいぶ反響ありますね」


 おそらく、俺のSNSの投稿見ているのであろう、ニシが言う。


「改めて、ヴィクターさん凄い人だったんだな」


 こちらはこちらで、筋トレをして荒い息づかいの中から聞こえる。


「自分でも驚きだよ。こんなにも俺のことを覚えている人がいたなんて」


 どんなに、ゲームのタイトルが人気でも、プロゲーマーには人気が集まりにくいのが現状だ。プロは勝つのが目的だから、面白くないところや、見苦しく見えてしまう場面がある。

 その点配信者が楽しそうに、おもしろおかしくやっている方が、見てる方も気兼ねなく見れる。なにより、そっちの方が楽しいだろ。

 やっている側だから、余計に感じることがあるが、ゲームを本気でやって、勝ちに執着しているところは、見ていて面白いと思いずらい。


 だからこそ、俺のファンですと言ってくれる人たちを大事にしたいし、お返しがしたいと強く思った。

 プロシーンでしか見れない、味わえない。熱狂と興奮を与えたい。


「みんなに、相談があるんだけど。いいかな」


「なんですか?」


 一番に反応したのはタイガだった。VCのアイコンバナーを見ると、まだフォージをプレイ中のようだ。本当に一番努力しているのはタイガだ。今もaim練習をしているのだろう。

 本気で勝ちたいと思っているのが、ひしひし伝わってくる。

 それを見ると、今俺が言おうとしたことを少し躊躇してしまった。

 だけど、これも決して蔑ろにしていいものではない。


「この前言ったことをと、真逆になっちゃうんだけどさ。やっぱり予選から配信しよう」


 ニシの大きなため息が聞こえる。


「そうだと思いましたよ。なんか嫌な予感がしたんです」


「俺は別にいいっすけど。やるなら俺もやります」


 テツは相変わらずだが、自分もしたいと言い出し事は意外だった。いつも、皆の流れに身を任せるタイプだったからだ。本当は自分もしたいと思っていたが、勝ちにこだわる、皆を尊重してくれていたのかもしれない。

 実際の所、一人がするのであれば、全員がしても大差ない。だから、俺がするのであれば、皆にもして貰おうとは思っていた。


「今回の件で分かったんだよ。やっぱり応援してくれるファンは大事だ。モチベーションにもつながるし」


 応援メッセージが届いたことで、何が何でも勝たなければいけない思いがさらに強くなった。

 あの時は自分の為だけに勝利を欲していた。つい最近までは、チームの為に。そして今は、応援してくれる人達みんなのために、俺は勝ちたいんだ。


「まあ、配信とか動画とか見てくれる人が増えれば収入も増えますしね」


「恐らく誰も配信しない予選が、一番ファンを増やすチャンスだしな。ヴィクターさんはともかく、俺と、ニシ、タイガは全くの無名なわけなんだからな」


「たしかに、これからプロを続けるなら、応援してくれるファンの人は必要だよね」


 やはり、三人とも思うところはあるようだ。


「でも、ヴィクターさん。ニシが最初に言ったように、結局のところ勝てなければ意味がないですよ?」


 それは、勿論のことだ。結局は強い人の所に人が集まる。今の話の大前提として、勝ち続けなければ意味がない。


「勝てる見込みはあるんですか?」


 タイガは、こちらに迫ってくるように、最終確認をしてきた。

 さすがに、無策でこんなことを、言いだしたりはしない。この答えを出すために、もともと用意していた、作戦を捨て、新しいものを捻り出してきた。


「予選を勝ち抜くだけなら、作戦バレしても十分勝算がある」


「ヴィクターさん、俺たちは勝たないとダメなんですよ。勝算があるじゃダメなんです」


「大丈夫。3人が完璧にこなしてくれれば絶対に勝てるよ」


「じゃあ、大丈夫だな!」


「そうですね、じゃあそれで行きましょう」


「そうしますか」


 3人が各々の言葉で、俺の提案を承諾してくれた。初めから、みんななら分かってくれるとは、思っていたが、こんなにも簡単に承諾してくれるとは。


「まだ、作戦内容も聞いていないのにいいのか?」


「ヴィクターさんが、大丈夫っていうなら大丈夫でしょ?」


 3人が聞きたかったのは、このセリフだったのか。


 俺たち一人一人が、絶対的自信を持っているかと言われる、なかなか難しい。だけど、自分を覗いた3人の実力は、本人以上に認めている。だから、誰か一人が、という言葉を使えば、それは確信につながる。足りないところを補っているというよりは、自分に実力以上のものを与えてくれる。


「これも、あなたが積み上げた、信頼と実績ですよ」


自分では、そこまでのことをした自覚は無い。これも、いつかタイガが言ってくれた、撒いた種なんだな。

だけど、それにいつまでも頼っているわけにはいかない。


「いつまでも過去の、栄光に浸ってちゃいけないな」


「そうですね、新たな種を日本中に撒きにいきましょう!」


タイガ、ニシ、テツ。この3人となら本当に出来るかもしれない。

2年前夢見たあの世界に、手がとどくかもしれない。


「それで、その作戦内容は?」


「それはな」







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