決断の時 2

 普段よりも格段に目覚めのいい朝だった。いつもならば、昨晩夜遅くまで、ゲームをして、睡眠が浅いまま眠り、睡眠時間も少なく。最悪の気分での起床だ。


 昨日あの後は、ゲームをせずに終わった。だから比較的にいつもよりは、早い時間に布団に入ったのだが、興奮していてなかなか眠りにつくことが出来なかったのだ。

 それもそうだ、これからの俺の生活も、人生も一変するような出来事だったのだから。今後のことを考えていたら、数時間は布団の中で起きていたと思う。

 そして、自分の中で一つの結論が出たと同時に気を失ったかのように眠りについた。


 俺は、ベットから起きて、すぐにスーツに着替え始める。そして、普段ならほとんど気にもしない身だしなみを整えて、一度家を出た。

 家のすぐそばにある、コンビニに行くためだ。よく来るコンビニで、普段は食べ物や、エナジードリンクなどを買っているが、今日の目当てはそう言ってモノではない。今まで一度も買ったことの無い、あるものを買い、もう一度家に戻った。


 一通りの手順をネットで調べ、とあるものを準備する。そんなことをしているとすぐに家を出る時間になってしまった。

 俺は、それを持って会社に向かう。


 これからは、毎日楽しい生活が待っていそうだ。きっと今まで以上に自分の責任も重荷も増えていくとは思うが、それでもわくわくが止まらない。

 俺は今までの俺じゃない、うだうだといつまでも行動出来ない俺じゃない。


 覚悟を決め決断した俺の足は軽やかで、会社はもう目の前だ。


 自分の部署に行くと、既に課長がデスクで仕事をしていた。俺は一度、自分の席に行って、鞄から家で用意してきたものを取り出す。そのまま鞄はデスクに置き、課長の元へ向かう。


「課長。おはようございます」


「ああ、」


 課長はこちらを見ずに、俺の挨拶に返事を返す。これは特別なことではなく、だいたいいつも、こんな感じだ。社員同士の関りも希薄で、自分の仕事さへ、していれば特に何もない。そんな会社だった。


「課長、受け取ってもらいたい物があります」


 俺がそう言うと、課長は初めて俺の方を向き、俺が手に持って差し出している物と俺の顔を交互に見た。俺がしようとしていることを、理解したようで、大きくため息をつく。


「お前、本気か?」


「はい!」


 小さな声で意思確認をされたので、俺ははっきりと返した。

 すると、課長は俺の手に持っているもの手に取り、それを自分のデスクの上に置いた。


「もう、次やることは決まっているのか?」


「はい、決まっています」


 課長は「そうか」と言いながら椅子に座り直し、改めて俺の方を見る。


「なんか、最近は前と違って、生き生きとしているなとは思っていたんだよ。帰るのも早いし」


 唐突な変化だったからやはり、バレていたよな。


「まあ、そんな状態のやつに言っても、しょうがないからな。次のとこでも頑張れよ」


「はい! ありがとうございます!」


「今日はもう、このまま帰っていいぞ。たまった有休は使いきっておくから」


「ありがとうございます! 今までお世話になりました」


 俺はお辞儀をして、その会社を去った。課長は正直苦手だったが、今日初めていい人だと思った。会社の人とは、ほとんど関りを持ってこなかったが、もう少し積極的に話とかしていたら、印象も変わっていたのかもな。


 しかし、ほぼトンボ返りではあるが、こんなにもあっさり終わるとは、思っていなかった。

 そして、これからは時間を気にせずゆっくりと眠れる。朝も目覚ましで、起きなくていいと思うとなんて幸せなんだろうか。


 ただ、これで言い訳はできなくなったな。


「よし! もう一度頑張るか!」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る