やっぱりゲームって最高だ 1
あれから、5日ほど経った。
タイガ君とは毎日SNSで、やり取りはしているものの、まだ一緒にゲームはしていない。きちんと時間がとれるときに、一緒にやることになったからだ。
ここまで、話してきて分かったが、どうやらタイガ君は通信制の高校に通っているようだ。だから、毎日遅くまで配信しながら、フォージをやっている。チラッと彼の配信を覗いてみたが、本当に楽しそうにゲームをするし、マジで強い。
一方俺は、毎日仕事をして、歩きながら飯食って、帰ってきても、数時間ほどしかゲームをする時間を確保できない。
これを見ても、歴然とした差だ。プロで結果を残そうとするので、あれは仕事なんか、している時間は無い。だけど、仕事を辞める勇気が俺にはあるかと言われれば、無い。
別に、プロになることを馬鹿にしているわけでは決してない。だけど、いくら、配信している人の中ではうまい部類だとして、見つかっていないだけで、俺より上手い人なんていくらでもいる。
それにこのゲームはゲーム性上、配信すればするだけ、勝ちからは遠のく。戦略がカギになってくるゲームで、配信なんてしたら、相手に手の内を全部さらけ出しているようなものだからだ。なにからなにまで、勝てない要素しか出てこない。
そんな俺が中途半端なことをしていいわけがない。それは俺が一番嫌っていたことなんだから。
そんなことを考えていると、家に着いた。
今日は金曜日。彼との約束の日だ。かく言う俺も、今日という日を楽しみじゃなかったわけではない。彼の配信で見た、他二人も相当な腕前だ。そんな上手い人たちとゲームをするのが、ゲーマーとしての喜びなのだ。
そのため、今日一緒にランクを回せるように、彼らとパーティーを組める程度には、俺もランクを上げておいた。フォストは実力差がありすぎるプレイヤー同士がマッチしないように、ある程度のラインで線引きされているだ。ランクマッチとは元々、そういう物だが、それは味方同士でも適用される。
彼がいるマッチ層は、ランクの一番上の階層だ。そのため俺は、その一個下まで、上げないといけなかったのだ。このゲームを始めて、初めて、目的意識を持ってプレーしたかもしれない。普段は、楽しむことを一番に置いている。ただ、目標を持って勝つことに執着する楽しさも、残念ながら俺には分かってしまうのだ。
家に上がり、パソコンを起動させながら、スーツから着替える。タイガ君の配信を見る限り、今日は何時間やるか分からないから、軽食と飲み物も準備してきた。
始める前から、もう楽しい。目の前の喜びの種に飛びつきたくって仕方がない。きっと今鏡を見たら、とんでもないニヤケ顔が見えれるに違いない。
起動したパソコンを見ると、彼らがいるであろう、パーティーチャットに招待されているのが分かった。
既に3人はプレーしているようだが、改めて考えると、またもや、俺だけが蚊帳の外だ。
タイガ君はもとより、一緒にプレイしている2人も俺のことを、多少なり聞いているだろう。それなのに、俺だけはまた彼らのことを、何も知らない状態で会話に入らないといけないのか。
だけど、そんな障壁も大したことに、感じないような気がする。
俺ってこんなに、明るい人間だったっけ?
ピコンッ
高い機械音とともに入室すると、彼らの会話が一時中断した。
「こんばんわー。初めまして」
「おおー! 来てくれたんですね!」
俺の声を認識して、本当に嬉しそうな声で、そう言ったのはタイガ君だった。
「こんばんわ。初めまして、ニシです」
「この人が、タイガがずっと話してた、ヴィクターさんか」
すると続けて、俺の記憶にない、2人の声がした。タイガ君ほど、若そうな声ではないが、一人目の人はずいぶんと落ち着いた、話し方をする人だ。一方、二人目の人は素の声が大きく、さらに野太い声をしている。
「イカゲソ丸です。よろしくお願いします」
俺が、自己紹介すると、ヘッドホンの向こうから笑い声が聞こえた。
「ヴィクターさん! なんでそっちの変な名前の方なんですか? ここにいる皆はしっているから大丈夫ですよ」
あ、そうか、つい今のアカウント名で来てしまったが、俺はヴィクターとして呼ばれていることを、忘れていた。現実世界なら、名前をいくつも持っているなんてことないから、これもネット特有の文化だとしみじみ感じる。
「というか、なんで、今はそんな変な名前なんですか?」
声のでかい男がそう尋ねてきた。やっぱり皆共通でこの名前は変だと思うのか。
「いや、フォージを始めるときに、プレイヤー名を決めなくっちゃいけないから、それで目の前にあった、さきイカから取ったんです」
「あーあ。ヴィクターさんって結構いい加減なところもあるんですね。ダイガから聞いてた話だと完璧主義者かと思っていたので」
この人はずいぶんと、積極的に話すな。ゲーマーにしては珍しい部類だ。しかも、ずけずけと来る割には嫌な感じもしない、不思議な人だ。基本的にゲーマーは、人とコミュニケーションをとるのが苦手だ。ゲームを挟むと大丈夫なんだがな。
「テツ。お前まだ自己紹介してないだろ?」
「あ、ごめんごめん。ヴィクターさん! 俺テツって言います。改めてよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
あちら側がこんなにもフランクに接してくれるであれば、俺もそれに応じよう
それにしても、みんな本名っぽい名前だな。
「いやー、ヴィクターさん! 僕嬉しいですよ! 早くもみんなと打ち解けてくれて!」
タイガ君はここに来てから、ずっと嬉しそうにしている
「今日は硬い話は無しで、普通にフォージを楽しみましょう!」
「おっけ」「了解」
この3人がどれほど一緒にいるのか分からないが、相当な中の良さを伺える。
「ヴィクターさんは、明日明後日は休みですもんね?」
「ああ、うんそうだよ。」
タイガ君が確認を取るようにそう訪ねてきた。初めから彼は、それを知っていたのだから、二人に周知させるためだろう。
「社会人は大変ですね。俺たち3人はニートなんで、時間はヴィクターさんが決めていいっすよ!」
テツ君が言うと、笑っていいのか悪いのか、冗談なのか本当なのか分からない。
「黙ってるとタイガは永遠にやろうとするんで、遠慮無く終わりにしたかったら言ってくださいね」
「ええ~、そんなことないでしょ!」
「ある」「あるな」
またしても息ぴったりで、聞いていて面白くてなってきてしまった。
「まあ、じゃあ、いきますか」
「ヴィクターさん、なに使いますか?」
役割があるゲームをチームやるなら、絶対に出る話題だ。
「いやーなんでもいいですよ。合わせます」
こういった時にありがちな返しだ。確いう俺は本当になんでもいいのだが。このゲームジョブの適正はきちんと理解しているつもりだし、どれも使いこなせている自覚があるからだ。
「好きなの使っちゃってくだせぇ」
タイガ君の言葉を後押しするように、テツ君がそう言う。
「じゃあ」
そう言って俺が選んだジョブは盾だった。
自分では特に意識していなかったが、心の奥ではストッパーがかかったのだろう。
あの時の俺のポジションはアタッカーだった。チームの先頭に立ち、戦闘のきっかけ、チームの起点を作る。
今回は良好な関係のままでいたい。あの時の二の舞いにはなりたくない。
だから、みんなのサポートに回るキャラを敢えて選んだ。
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