容姿差別のない世界で
@tak114
第1話
「…………そして、20XX年、容姿差別禁止基本法が施行されました。それ以降顔認知機能抑制インプラント、通称FPCIの装着が義務付けられ……」
社会科の女教師が、板書をしながら教科書を読み上げている。一部の真面目な生徒を除いて、聞く側は余り身を入れていない。このクラスが特別不真面目というわけではない。今更現社の授業で習うまでもなく、皆よく知っている事だからだ。
FPCI、容姿差別をなくすという名目で導入されたそれは、要するに人の顔、その美醜を認識出来なくする機械のことだ。それを装着しても他人の顔が見えなくなるわけではないし個人の違いも認識出来るが、それを美醜、好悪という感情に結びつけることが出来なくなる。俺達が生まれる20年くらい前に義務化され、今では全ての人間が生まれて間もないうちに頭の中にそいつを埋め込まれる。
昔のことを直接知っているわけじゃないが、容姿差別は今あるどの差別よりも残酷で、差別に反対する人でもやめられない程強力なものだったと授業で習った。“FPCIネイティブ“の俺にはよく分からない感覚だが、確かに昔の小説や漫画を読むと見た目に関する描写がかなり多い。
なんでも『人間は見た目が9割』なんてタイトルの本まであったらしい。
「…………現在に至るまで、容姿を理由にした差別は激減し、就職、恋愛においても以前と比べ、純粋に人間性に基づいて相手を選ぶことが出来る様になりました。現在では更なる差別の根絶を目指し、体型や声への好悪も抑制できるよう研究が進められており…………」
見た目が9割の世界、か…………。
全く想像つかねえな。俺は先生の言葉を聞き流しながら心の中で呟いた。
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