2020年4月10日(金)-3

 ひとが集まってきたので「じゃママはそろそろ体育館に行っちゃうね」と娘と別れる。

 娘は「えぇえええ! いやだああああ離れないでぇええええ」とひっついてきたが、密になっちゃうし。すまん。


「うっ、体育館より寒い……! 外にいるのと気温あんまり変わらないじゃん」


 なにせ窓は全開、しかもそこからすごく寒い風が入ってくる。教室はある程度人数が増えるとそうでもなくなったが、天井が高く広々とした体育館ではおそらくそれは望めないであろう。


「無理無理無理無理寒い寒い寒い寒い……。ヒートテックたくし上げて履いてくればよかった~!」


 それ以上に娘が心配だ。ワンピースの下には一分丈レギンスをはいているとは言え、生足。上もワンピと上着だけだし。絶対に寒い。


「うぅ、申し訳ないことをしてしまった。せめてタイツをはかせてあげるべきだった。なにを思い立って可愛い靴下なんぞを買っちまったのか……」


 可愛さよりも求めるべきは機能性だというのに。ぐぬぬ。


 少し遅れて入ってきた保護者もだいたいみんな寒そう。ほぼワンピースとジャケットみたいな格好だもんな。わたしもだが。


 そうして凍えながら待っているうち、先生方がやってきて式次第などの説明。

 開式の10時を迎えたところで、担任の先生を先頭に3クラス分の子供たちがぞろぞろ入ってきた。

 BGMのさんぽの音楽が寒々しい体育館に元気に響く。この落差たるや。嗚呼。


 補助の先生の誘導もあり、新一年生が続々とパイプ椅子についていく。パイプ椅子の感覚も大きく空いていて、コロナ対策が徹底しているなぁという感じ。

 わけもわからぬ顔で席に着く新一年生たちは、ほとんどの子がパイプ椅子から足が浮いてしまうので、ぷらんぷらんと振り子時計のように動かしているのが可愛かった。


 いろいろ省略された式は国歌も心の中で歌う、校長先生のお話も短く、PTA会長のお話も短く、祝辞は背後に張ってあるからあとで見てね、という感じ。なので十五分くらいでさっさと終わってしまった。

 そうしてまたさんぽの音楽に導かれ教室に戻っていく一年生たち……なんだかシュールな光景だな。子供のフォーマル見るのは可愛くて楽しくてよろしいのだけども。


『これから一年生は各クラスに戻り、担任の先生のお話を聞くことになります。その後、またこちらにクラスごとに戻ってきて記念撮影となりますので、保護者の皆様はそのままの席でしばらくお待ちください』


 という司会者の教頭先生のアナウンスが鳴り響く。えっ、このクソ寒い空間でまだ待てとはいったい……?


 実際にどの保護者も凍えていて、膝掛けを持ってきている方がめちゃくちゃうらやましくなるほど寒かった。

 顔見知り同士で話す言葉と言えば「寒いね」のみだ。わたしはママ友ゼロ人間だけに周囲の会話を聞くのみだが、友達がいたとしてもやはり「寒いね」しか言えないだろう。

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