2020年3月18日(水)

 子供たちの通う(通っていた)幼稚園は月に一度だけお弁当の日が存在する。

 毎月第三水曜日がお弁当の日と決まっていて、娘は卒園しちゃったけれど、息子は在園中なので、今朝はお弁当を作った。


 弁当の日が月一で、そうそう子供の記憶に残らないのをいいことに、メニューはだいたいいつも固定。

 卵焼きと前日に作った唐揚げ(あるいはチキンカツ)とウィンナー、ブロッコリー(冷凍)かミニトマト、ほうれん草とベーコンの炒め物(冷凍)、というシンプルな内容を永遠に毎回くり返している。


 同じほうがいいのよ~。完食してきたという結果が過去に出ているならなおさら。

 一度食べられたもんはまた食べられるとわかるし、本人としてもサプライズ的なものがなくて安心して食べられるしね。


 ということで弁当を持たせた息子が「また一人で園バスに乗るのか……」という顔で娘とわたしの見送りを受けてバスに乗り込む。

 そのバスをにこやかに見送り、娘とともに家に戻りながらも、わたしの心はなかなか晴れない。


 一昨日の16日は卒園式でおめでたい、わたしの大好きなフィギュアスケーターも誕生日でおめでたかった。それなのに……。


「ママ、なんか暗くない?」

「ママが応援していたプロのフィギュアスケートのひとが死んじゃったんだよ……つらい……」


 一日経ってもなかなか傷が癒えない。プロ転向して数年、これから日本の子供たちにアイスダンスを広げていこう! って準備していた矢先のことだとわかっているだけに、なおさらつらい。


「コロナも広がっているしねぇ……。今ヨーロッパのあたりではたくさんのひとがコロナで死んじゃってるんだよ。感染しても入院できなくて苦しんでいるひとがいっぱいいるんだって」


 中でもイタリアはオーバーシュート状態。病院の廊下にも外にもコロナ患者があふれているとのことで、かなり悲惨な状況らしい。

 中国ではじまったウイルスが、海を隔てているとは言え、すぐ隣の国であるジャパンよりも、ヨーロッパとかアメリカで猛威をふるっているというのも不思議な話だ。


 大型客船での観光が盛んなオーストラリアでも、やはりそういう船から感染が広がってきているというし。

 世界中どこに行っても『コロナ』の三文字から逃れられなくなっている感が強すぎる。


「まぁとにかく手洗いと消毒がんばって、家族以外のひととお話しするときはちょっと離れる感じにして、がんばっていくしかないよね」


 と娘に言い聞かせていると、ピンポーンとインターホンが鳴って、宅急便のお兄ちゃんが顔を出した。わたしが勝手にお気に入り認定している、羽生結弦と星野源を足して二で割ったような塩顔のお兄ちゃん! 心ときめくわ~。


「いやだが宅急便とは距離を取るのが難しいな。荷物は基本、手渡しだもんな」


 娘に説明したこととの矛盾を感じつつ、玄関に出て行き荷物を受け取ったが、そのお兄ちゃんがお手製とおぼしき水玉模様の布マスクをつけていたのを見て、ハートがズキュンと貫かれた。


(ええええ、めっちゃ可愛いー! 顔に似合わずめっちゃ可愛い! えっ、まさかお手製? それとも誰かに縫ってもらったとか!? そこんとこちょっとkwsk……っ)


「ありがとうございましたー。ではー」


 わたしが脳内で興奮しているあいだに塩顔のお兄ちゃんはいつものクールな塩対応でさっさと帰ってしまった。


 ……いやぁ、でも、心ときめく光景を見られてすさんでいた心がちょっと回復したわ……。

 塩顔イケメンって世界を救うな、とこの程度でうんうんうなずいちゃうわたしの心の軽さときたら、チョロすぎて残念すぎるほどではあるけど。

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