2020年3月16日(月)-2

「いや寒い。すでに歩きながら寒い。コートがないのつらい。寒い。足が痛い」


 幼稚園まで歩くたかだか5分間のあいだにわたしは何度愚痴を言ったかしれない。

 夫はスーツだからいいけど、こちとらワンピースは半袖だし、その上のジャケットは保温性はそんなにないしで、寒いったら寒いのだ。ヒールのおかげで全然早く歩けないし。風があまりないのが救いと言えば救いか。


 とりあえず幼稚園に近づいてくと、イベントのときはいつもそうなのだが、園庭のスピーカーから楽しい音楽や、卒園おめでとうという先生からのメッセージが流れていた。

 門のそばには車を誘導する先生方がいて、そのうちの一人が息子の担任の先生だった。


「わ~、○市君もきたんだね! 格好いいねぇ」


 とぱたぱた駆け寄って息子をハグしようとしてくださったが、いつもエプロン姿の先生が上下黒スーツでパンプスを履いて、マスクをしているのが違和感バリバリらしく、息子は逃げることこそしないものの、カチンコチンに固まって引いていた。取り乱さないだけ偉い。


 門をくぐればすでに多くの保護者であふれていた。教室に娘を送っていくと、袴姿にマスクの担任の先生が「○子ちゃん、おはよう~!」と挨拶してくれる。


(うぅ、先生、せっかくの晴れ着なのにマスクしなくちゃいけないなんてつらすぎる)


 袴、めちゃくちゃ似合っているし、ボブの髪も巻いててすごく可愛いのに!

 コロナめ、こんなところでも影響を及ぼしやがって……という気持ちしかない。


 先生はもちろん園児たちもしっかりフォーマルな格好で椅子に座っているだけに、○子は不安そうな顔をしつつ、そろそろと教室に入っていく。息子と同じく完全に腰が引けている様子に苦笑しつつ、わたしは先生に「お願いします」と声をかけて廊下に戻った。


 廊下には三学期はじめの参観日で作らされた思い出のアルバムや、園児一人一人の写真集とかが飾られていた。

 写真集のほうは、わたしも例によって必死に過去の幼稚園での写真を探し当てて、ぺたぺたと貼り付けて作ったのだが……かなりデコっている作品が多かったので、娘のがちょっと見劣りしているのが切なく感じられた。


(もっとシールとか貼ってあげればよかったかな……。息子のときは、もうちょっときらびやかなのを作ったほうがいいかもしれない)


 という感じで、上の子がいるママさんたちは学習して、それを下の子に生かすんだろうなぁというのを実地で感じた次第。

 そしてわたしと夫と息子は保護者の波に乗って、遊戯室へと移動していった。

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