2020年1月10日(金)-3
虫歯六本を全部治療するのは難しいのでとりあえず今日は二本やろうね、ということでキュィイインと鳴る例の器具に対し、息子がぎゃあああああっとなっている中、わたしは息子の手を押さえつつ、向かいの席で一人座る娘を見やる。
六歳の娘は「ママは○市君のほうにつくから」と言うと、ちょっと不満そうに一人で席に着いていたが、普段はどんなお菓子食べているの? と質問する衛生士さんに「ポテチが好き」などと、ちゃんと答えていた。
(環境の変化に激烈に弱くて、人見知りもすごい娘がちゃんと会話してらぁ)
そのことについジーンとしてしまう。
この歯医者にくるのがもう四度目とか五度目だから慣れたというのもあるのだろう。初対面の相手には石のように固まる娘だけに、成長したなと思わずにはいられない。
(わたしも小さい頃はめっちゃ人見知りで、声かけられても棒立ちしていたもんなぁ)
それが小学校の高学年くらいでころっと反転して、どんな相手にも愛想よく受け答えできるようになったのだから我ながら驚きである。
根っこの部分ではコミュ障なのはまったく変わらないのだけど。外面をよくすることを成長するにつれて身につけたという感じ。
(○子もそんな感じで適度に社会性を身につけてくれればいいなと思うけど……)
言葉のおくれはあるものの、基本的にフレンドリーで、人見知りや場所見知りという言葉からは無縁で育った息子に対し、娘はかなりの繊細さん、おまけに敏感さまでくっつけたセンチメンタルガールだ。
新しい場所やはじめて会うひとがだいきらい。可愛いねぇと言われるとむすっとした顔をする。人前に出るのもだいきらいで、運動会のダンスや発表会の歌などは、泣くか棒立ちか、むすっとしながらいやいややるかの三択だ。
(年少さんの頃は運動会はかけっこ以外はなにもできず、綱引きとダンスは担任の先生におんぶされていたもんな……)
おかげで年中さんになってなんとかダンスを踊れるようになったのを見たときには、嬉しさのあまり「あの子ちゃんと参加できてるぅうう!」と震える声で叫び、観客席で隣通しだった見知らぬマダムに「よかったわねぇ」と声をかけられる始末である。
そんな娘だけに、衛生士さんとちゃんと会話して、「じゃあ横になって」と言われたら横になり、「お口開けて」と言われれば口を開き、「歯磨きするね~」と言われればおとなしくしている娘を見ると、成長したなぁぁ……! と涙ぐまずにはいられない。
うんうんと娘の成長にうなずいて感動している母のすぐ前では、キュィイイイインと鳴る機会に虫歯を削られ、身をよじって逃げようとしている息子がいるが。
暴れようとする息子の手を押さえて「大丈夫だよ~」と心のこもらない励ましを言っているうちに、息子の虫歯の削り作業は終わり、薬を詰めて削った部分を埋める作業に入った。
虫歯の治療自体ははじめてではないからか、息子も情けない声を出しながらも、よく我慢したほうだと思う。
(なんにせよ虫歯が六本もあっちゃ、最低でも三回くらいは歯医者通い決定だな……)
だが考えようによってはこのタイミングで治療できてよかった。どんなに時間がかかっても三学期の内に虫歯は全部治療を終えられるはず。
来年度早々にある幼稚園での歯科検診はとりあえずクリアすることができるだろう。
子供たちも口の中をあれこれされる試練に耐え、帰り際にキャラクター消しゴムをもらったときには笑顔だったので、まぁ母子三人ともがんばったということで花丸だ。
……あ、耳鼻科のことを思い出したら忘れかけていた耳がまたジンジンしてきた……ママも消しゴムもらって、受付のお姉さんに「がんばったね」ってほほ笑まれてみたい人生なんだけど……。
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