フラメンコ 💃

上月くるを

第1話 招かれざる新人




 京で旅籠なるものを見て来た田舎者が、四国へ帰って似て非なるものを造ったが、まったくその体を成していないので「もどき」とあだ名されているうちに呼称が定着して「もどき屋」の屋号になった……そんな歴史小説を読んだ記憶があるが、あれと同じものだったなといまにして思うケイコが習ったフラメンコとは……。オレ!🌹




       🍃




 6階の受付でパスポートのチェックを受け、案内された教室は意外に狭かった。

 20畳ほどのフロアの東西2面は鏡張りで、南の窓からイオンモールが見える。


 総鏡の前に通されたバーに足をのせて、ウォーミングアップ中の若い女性たち。

 靴を鳴らしてステップを踏んだり、器用に手首を曲げてフリを練習したり……。

 ひとりだけ背の高い男性が混じっているが、女性陣にすっかり溶けこんでいる。


 その全員がオズオズ入って行った新人に目もくれないのに、まず呆気にとられた。

 大歓迎されると思っていたわけではないが……大人の付き合いとしてどうだろう。


 

       *



 身の置き場に困っていると、勢いよく開いた扉から固太りの女性が突入して来た。

 その場にいた十数人の「おはようございます」の挨拶で、この教室の講師と知る。


 50代前半といったところか、全身これ筋肉の中肉中背、鷲のように眼光が鋭い。

 ケイコが「あの、今日から……」と申し出ると、無言の視線を物かげへ放られる。


 私物をロッカーに入れ、そこで素早く着替えるシステムらしいと、何となく悟る。

 カルチャーセンターのパンフにはやさしげな笑顔が写っていたが、ま、いっかあ。


 大急ぎで持参のジャージに着替えて出て行くと、どっとばかりに嘲笑が上がった。

 みんな小洒落たレオタードで、中学の運動着風はケイコだけだから、仕方ないか。



      *



 それにしても……である。(-。-)y-゜゜゜


 教室としてどう認識しているのか、新人に初歩を教える気はさらさらないらしく、いきなり前回の復習から始まったので、ケイコには何がなんだかチンプンカンプン。


 東京から新幹線で通って来る有名な先生です――とパンフのキャッチに紹介されていた講師は、つづくかどうか分からない新人になど、一言もかける気がないらしい。


 しかも、驚いたことには、いつの間にか専属ギターリストがスタンバイしている。

 初日からプロの生演付きとは、まさに恐れ入谷の鬼子母神ではないか。🎸(笑)



      ****



 そんな環境でスタートしたケイコのフラメンコレッスンだったが、冷遇されたからといって音をあげたら女がスタルとばかりに、半ば意地だけで(笑)半年間通った。


 生徒を大切にしないわりに商売には抜け目がないらしく(笑)、2週目には早くも足型を採って靴をオーダーされ、ついでに自前のスカートも誂えさせられた。👠👗


 一方、肝心のステップもフリも教えてくれないので、娘のように若い先輩会員たちの見よう見まねで「もどき」を学んだが、マスターしたら、すうっと執着が消えた。


 レッスン後、即刻カルチャーセンター事務局に退会届を出したケイコのもとには、足にぴったりの高価なパンプス、どこへ着て行きようもないド派手な舞台スカート、それに1組のカスタネットが戦国時代の野戦のつわものどもの夢の跡のように残された。

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