春を想ふ

あさり

第1話 始まり

両親が消えてから、3ヶ月が過ぎた。

未だ見つかる目処はたっていない。


なんの前触れもなかった。

車もあり、荷物もそのまんま。

お金には困ってなかったし、借金がどうとかいう話だってなかった。お父さんは不正を働くような人ではないし、お母さんも他の男に貢いでしまうような人ではなかった。

というか、他の家族より仲が良かった、

と思う。

動機すら見つからないのだから、捜索も難航するに決まっていた。


たった、3ヶ月。それでも、高校生の私には荷が重すぎた。

中学生ならいくらか良かったかもしれない。

義務教育をギリギリ受け終わってしまっている高校生という立場は、やむなく自立を強いられるのだ。

祖父母は2年前に亡くなっていたため、母方の叔母が家に来てくれた。しかし叔母は看護師なので長期休みは叶わず、1ヶ月後には仕事に復帰し、ちょくちょく様子を見に来てくれる程になった。


家事にはもう慣れた。

けれど、1人ぼっちの静かな家で寝る事だけはどうやっても慣れなかった。

時計の秒針の音だけ響く部屋で、神様を恨んでしまう日々が点々と続いた。

両親の死体も見つからない3ヶ月。





今日も、何もない1日だった。

異常が続けばいつか日常に変わる。

誰が言ったのか知らないけれど、その通りだと痛感しながらベッドに入って電気を消す。

1人は嫌だった。

一人っ子にしては、私は甘えん坊で寂しがり屋だったそうだ。夜寝る時、一瞬でも一人ぼっちになったら泣き出すくらい。幼稚園に入ってからも、「はるか、早く寝てしまいなさい、夜は短いのよ」と笑って隣であやしてくれていた。

両親の顔が見たかった。

自分で作る卵焼きの味は、頑張ったけどお母さんの味には勝てなかった。ほんのり甘くて温かい味。

2人に会いたい。





会いたい……






















不思議な感覚がした。ふわふわ浮いているみたい。足が地面につかない。

落ちている?昇っている?わからない。

周りは真っ白だ。体が軽い。空気になったみたいだ。あまり動かせないけれど。

頭もぼんやりとしている。視界もぼやけていてよく見えない。見る物があるのかすら分からない。

夢なのかもしれない。考える事に疲れた私の脳が生み出したんだ、きっと。

お風呂に浸かっているみたいだ。暖かい…

ぼんやりして気持ちいい…

ずっとここに居れば、何も考えずに済む…

……



「……か…」



声が聴こえる……なんて言ってるんだろう…

私1人しか居ないのに……どこから……




「……か。…るか…!」


聴いたことがある声……

懐かしいような……

どうして………






「…はるか、………遥!!!!」



強い光が視界を覆った。

グルグル回って落ちて、真っ白な光で何も見えなくなって…………


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」



体に衝撃が走る。

地面らしき感触を感じた。




目を開いた。

私は見たこともない路地に座り込んでいた。

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春を想ふ あさり @aftrs4869

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