第4話
「おはようございます」
眠い目を擦りながら降りてくる蓮。
「寝不足か?夜遅くまで出歩いとったんじゃろぅ」
柴さんがいつものように新聞を広げて読んでいる。
「気分が悪くて寝付けなかったんですよ」
蓮が気だるそうに自分の席に座ると、目の前の資料の隙間からアイビーが覗いた。
「顔色悪いぞ、今日は休んどけ」
「でも調査があるし‥‥」
「それなら一人で行く」
アイビーは蓮を気遣っているようだ。
「‥‥でも」
「そんなんで行くわけ?病人は目立つからやめて」
迷惑をかけたくなかった蓮は仕方なく休む事にした。
「分かりました、じゃあお願いします」
「言われなくてもー」
アイビーは気にしないと言った様子で作業を続けていた。
ノロノロと事務所を出て自宅に戻った蓮はベットに転び天井を見つめていた。
(胸騒ぎがする)
考え事をしている間に眠ってしまっていた蓮。カーテンの外はすでに暗くなっていた。
(うーん、少し寝過ぎたかなぁ。そうだ、アイビーに謝っておかないと)
目が覚めた蓮は冷たい水で顔を洗い、事務所に降りる。
「ご心配かけました」
「もう大丈夫なのか?」
柴さんが心配してくれている。
「はい、寝たらすっかりよくなりました。ところでアイビーは?」
「ちょっとな」
柴さんが所長の部屋に視線をやる。
アイビーは所長と何やら話し込んでいたようで、しばらくしてアイビーが出てきた。
「アイビー、今日は‥‥」
蓮が謝ろうと思ったその時。
「お前なんかしたろ」
アイビーが蓮の話を遮った。
「えっ?何の事?」
突然の事に蓮は困惑している。
「お前担当の依頼、調査打ち切りだってよ」
「えっどうしてですか?!」
「それはこっちが聞きてーよ。なんか依頼人が今日いきなりきて打ち切ってほしいって」
「そう‥‥ですか」
蓮は昨日の事が関係あるのかと思って、とても言い出せなかった。
「いきなりだったから驚いたよ」
「理由ってなんか言ってました?」
「対応したのが所長だから、聞いてみろ」
「はい」
蓮は恐る恐る所長の部屋に向かう。
コンコン
「どうぞー」
「おじさん」
そっとドアを開け部屋に入る蓮。
「蓮か、丁度よかった。アイビーから話は聞いたか?」
「うん、どうしてだろ」
「まぁ依頼人が言うには浮気はしてなかったみたいだからもういいと」
「浮気は?」
「いいと言われたらそれ以上詮索する事は出来ないし、俺らには関係のない事になってしまうからな。蓮には他の調査任すからそれまでどっかで遊んでおけ」
「遊んでおけって子供かよ」
「お前はまだまだ子供だ。分かったら、コーヒー淹れてきてくれ」
「‥‥分かった」
蓮は絶対何かあると思い、もう一度あの場所に行こうとしていた。
(あの臭いが何なのかも気になるし、思い出したくても思い出せないあの場所)
その事が頭から離れなかった。
給湯室でコーヒーを淹れながら記憶を辿っていたが、いくら考えても思い出せない。
「少し出掛けてくる」
コーヒーを持っていき、所長にそう伝えると事務所を出た。
蓮はマスクをし、その場所に向かった。
(やけに寒いな)
季節は秋、夜は少々冷え込む日が増えている。蓮は再びクリーニング店にやってきた。
外観はボロボロ、看板の字もほとんど消えている。しかしシャッターは閉まっておらず異様な雰囲気だ。
(‥‥はぁ)
ため息をつく蓮。
その時、微かに足音が聞こえた。
(誰か来る!)
蓮はとっさに物陰に隠れる。
コツコツコツ‥‥‥。
少し早歩きのローファーの音。
蓮はそっと覗いた。
カチャッ。
そこには鍵を開けてクリーニング店に入って行く人の姿があった。
(対象かな?)
蓮は調査対象だと思っていた。
しかし、動きたくても足が震えて動けない蓮、心臓もバクバクしている。
(誰なのか確認しないと)
蓮は焦っていたが、その場を動けずにいた。しばらくすると鍵をかけ、その場を去る人影が。蓮は勇気を出してその人物の後をつける。
(ん?またあの臭いだ。頭がクラクラしてくる。でも追わないと‥‥)
蓮は気分が悪くなりながらも尾行を続ける。暗闇を抜け、街灯に照らされ、蓮は気付いた。
(やっぱり)
それは蓮が今まで尾行をしていたローファー男だった。
(ずっとあの場所に行ってたんだ。気付かれないように毎回違う路地から入って)
そして、ローファー男は自宅に帰った。
(気持ち悪い、とりあえず帰らないと)
蓮はフラフラになりながらどうにか帰ると、ベットに直行し、そのまま眠りについた。
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