第3話
翌日、蓮は昼過ぎに起きて準備をし、今日の仕事の確認をする。
最近は今担当している依頼だけの為、動くのは大体夕方からだ。
「おはようございます」
蓮が事務所に降りると、みんなそれぞれ自分の仕事をしている。
柴さんは相談員の為、主に依頼人との面談。
アイビーは調査に出ているが、普段から出払っている事が多い。
所長はそれぞれに指示を出し、それを受けてみんなが行動する。
「今日で10日か」
所長が報告書を見ながら呟いた。
「蓮の担当案件か?」
柴さんが老眼鏡をかけながら所長の手元を覗く。
「ここまで証拠が出ないとなると依頼人もしびれを切らすでしょうね」
「でも何か一つでも見つかるまでは続けて欲しいと」
「そろそろ行動してほしいものですね」
「まぁこればっかは本人都合じゃからのぅ」
「おじさん、柴さん、いってきます」
時間になり、蓮が帽子を被りながら言った。
「その呼び方やめんか、親じゃろぅ」
柴さんはいつも一言多い。
「いいんですよ、柴さん!蓮、気を付けてな!」
明るく振るまう所長。
複雑な気持ちで事務所を後にする。
蓮は所長の事を未だにお父さんと呼ばない。
蓮は小さい頃から空気の読めるいい子だった。反抗期もなく、所長に引き取られた時も、すぐ環境に馴染めた。
初めはお父さんと言おうとした。しかしなぜか、所長が自ら"おじさん"と呼んでほしいと。
(頼む、今日も真っ直ぐ帰ってくれ)
蓮はそう願いながらいつもの場所で待機する。ローファー男が出てくる時間はバラバラだ、その為何時間も待機する時もある。
(きた!)
現れた男の後をつける蓮。
会社を出てしばらく歩くと商店街に入る。
男の自宅は商店街を抜け、二つほど角を曲がった所にあるマンションだ。
(あっまたどっか行く!)
男は商店街を抜けずに裏路地に入って行く。蓮は慌てて後を追うも、見失ってしまった。
(くそ!一体どこ行ったんだよ)
その場で探し回ってしまうと目立つ為、大人しく帰る事にした蓮。
(それにしても迷路みたいだなここ)
蓮は商店街を見渡しながら帰った。
「帰りました」
「お帰り、その様子じゃまたか」
所長にはすぐ分かったようだ。
「俺センスないのかも」
肩を落とす蓮。
「そうだ、今日は焼肉にするか?」
「マジ?やったー!」
「単純なやつだな!」
蓮と所長が話しているとアイビーが帰ってきた。
「帰りました。所長、明日はついて行けそうですから」
「そうか、忙しいのにすまないね」
「そのくらい余裕ですから、それより報告があるんで」
そう言うとアイビーと所長は部屋に入っていった。
「よく働くなぁ」
蓮がボソッと呟く。
「アイビーは可哀想なやつなんじゃ」
柴さんが言った。
「可哀想?」
「詳しい事は知らんが、わしにはいつも悲しそうな顔をしとるように見える」
「そう、ですかね?」
蓮にはそうは見えなかった。
しばらくすると、アイビーと所長が部屋から出てくる。
「これから蓮と飯行くけどアイビーも来るか?」
「自分は用事があるんで遠慮しときます。お疲れ様でした」
アイビーはそう言うとさっさと帰った。
「柴さんは行きますよね?」
少し薄笑いしながら所長は柴さんに言った。
「わしも今日は遠慮しとくわ」
「そうですか‥‥じゃあお先に失礼しますね!」
所長はそう言うと、蓮を連れて事務所を出る。
「みんなノリ悪いのー」
蓮は小さい子供のように愚痴った。
「みんなにはみんなの生活があるんだよ」
「そうだ、今日見失ったとこもマークしとかないと明日アイビーに怒られちまう」
「仲良くやれよ」
「仲良く出来るやついるの?女か男か分からねーし歳だって俺より年下とは思えねーけど、それにしてもキツい性格だよ?」
蓮はアイビーと行動する事が気まずかった。
「ハハハ、そのうち慣れるさ」
「他人事だな」
「ほら、さっさと食ってする事あるんだろ?」
「はーい」
二人はお腹を満たすと事務所に戻った。
「えっと、ここか」
早速机に地図を広げマークをつけていると、蓮が何かに気付いた。
(ん?なんかこれ四角形?)
今日で四回目、地図に四つ目のマークを付け、それを線で繋いでみる。四角い形になった。
(ほぅ、それでここをこうすると)
四角にバッテンを付けてみる。
(ここになにかあるに違いない)
蓮は気になって仕方なくなっていた。
「おじさん、ちょっと出掛けてくる!」
蓮はそう言うと地図を片手に事務所を飛び出す。
「おぉ、気を付けてな」
いきなりの事に少し驚く所長。
蓮は薄暗い商店街を一人歩いていた。
(確かここだな)
四箇所のうちの一つに着く。
(どこから入っても繋がってるって事は分かってる。問題はそこに何があるかだな)
蓮は問題のバッテンの中心にたどり着く。
(‥‥これって)
そこには今はやってないであろうクリーニング店があった。
蓮には見覚えがあった。しかしそれがいつの記憶なのか、思い出せない。
蓮は中に入ろうとドアノブを捻ったが、鍵がかかってあり入れない。
(なんだこの臭い、くさい)
その時、蓮は急に気分が悪くなった。
(帰らないと‥‥)
突然の変なにおいを嗅いでしまった蓮はフラフラになりながら吐き気を我慢して歩いた。
蓮はやっとの思いで自宅のあるビルまで帰って来ると、最後の力を振り絞って階段を上がった。
「ただいま」
玄関を開け、脱ぎ捨てるように靴を脱ぐと、壁に寄りかかりながら家に入った。
「いきなり飛び出してどこ行ってたんだ?」
所長が心配して聞く。
「今日は疲れたから、また明日話すよ」
「そうか、ゆっくり休め」
何か言いたげな所長をよそに、気分が悪くなった蓮はベットに横になりそのまま眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます