戦士のおっさんはクビになりました

あたまかたい

第1話 突然の解雇

戦士一筋三十年。

今までマジメにやってきたつもりだ。


しかし、寄る年波には勝てないというのか、

さすがに歳を取った。


まだまだ若いものには負けん、なんて口では言っているが、

体力では若いものに敵うはずがない。


しかし、そんな年寄りでも、必要とされている。

そう思えば、頑張らざるを得ない。


「今日も一日がんばるぞっと」


今日も仲間と冒険。

と思っていたが、今日はいつもと様子が違う。


「あれ?新人?珍しいな。」


見知らぬ人間を迎えて談笑している。

「今日からお世話になります。戦士の田中です。よろしくっす。」

「田中くんかー。よろしく。いやー若いねえ。良いねえ。」

なんて冗談めかしく言ったりして。

新人には、はやく馴染んでもらわないとね。


「みんな揃ったな。それじゃあ朝礼始めまーす。」


リーダーが喋り始めると、ちょっとマジメな空気になる。

みんなマジメだなー。誰も喋らないよ。

こういう空気ちょっと苦手なんだよね。

俺は気楽にワイワイやっていたい方の人間だから。



「今日は連絡が二点ありまーす。まず一点目は、彼。」

「戦士の田中です。よろしくお願いします。」


元気に挨拶する田中くん。若いって良いねえ。

みんなで拍手したりして、歓迎というかんじ。


「はい。それでは二点目ですが、戦士のおっさんは、今日までとなります。」

「え?」

「「今までありがとうございましたー。」」


なぜか全員で声を揃えている。

なんだこれは。

俺は聞いてないぞ!?


「な、なにこれ!?うそ?聞いてないんだけど!」

うろたえる俺。


「まあ、おっさんには後で俺から個別で話があるから。それじゃあ今日もみなさんがんばって行きましょう。解散!」


リーダーの号令で朝礼が終わった。

マジかよ…。どういうことなんだよ。


色々急すぎて頭がいっぱいだ。


考えるヒマもなく、すぐにリーダーに呼ばれる。

そして、色々な書類を出されつつ、話をする。


「まあ、もうわかってると思うけど、今日から新人の田中くんがくるから、代わりにおっさんには辞めてもらいます。」

リーダーは淡々とした口調で話を始めた。

「そんな、リーダー!俺まだやれますよ!新人が来たからってそんな…。」

俺が何を言っても聞く耳を持たなかった。


リーダーはちょっと面倒臭そうになる。

「おっさんの気持ちはわかりますよ。でもね、こっちも経営ってものがあるからね。ウチも余裕があるほうじゃない。それに先のことを考えたら、若い人を入れていかないといけない。」

「けど!」

食い下がる俺。だけど、リーダーは耳を貸さない。

「悪いけど、もうおっさんは限界だと思います。もうとっくに成長限界を迎えてる。それに比べて田中くんはまだ若い。これからも伸びて行くでしょう。」

「はぁ。」

たしかにこのところレベルも上がらないし、体力も落ちていくし、そう言われたらそうなのかもしれない。

もう俺はダメなのか?


「そんなわけなので、申し訳ないけど今日限りとなります。お疲れ様でした。」

「…。」

納得はできない。でも理解はできる。

俺はもうここでは必要ではないんだな。

俺の居場所はもう、ここにはないんだな。


「多少事務的な手続きがありますので、あとは総務にお願いします。」

「わかりました。」


リーダーは足早に去っていく。

特に別れの挨拶とか、そういうのもないんだな。

薄情だなあ。

まあ、今日も彼らは冒険の仕事があるからね。忙しいよね。


「それじゃあこちらの書類に記入をお願いします。」

総務の佐藤さんだ。


佐藤さんに言われるままに、書類を完成させていく。

「それを持って冒険者ギルドに行ってください。それで手続きは完了ですので。」

「はい。わかりました。」

「それでは今まで長い間ありがとうございました。」

終始淡々としている佐藤さん。

「いえ、こちらこそお世話になりました。」

深々とお辞儀をする俺。

正直、こんなところで礼儀正しくしてもしょうがないよな、なんて思う。

相手が不義理なのに、こっちだけちゃんとしてもしょうがなくないか、と。

でも、佐藤さんが悪いわけでもない。

そう考えたら、やっぱりこれで良いんだ。そう思えた。



にしてもまいったな。

この歳で解雇とは。


どうしようかな。

いろいろ悩んでしまう。


なんにせよ、次の就職先を見つけないといけないのか。

気が重いなあ。


なんて考えているうちに、冒険者ギルドに着いた。

受付で書類を見せると、別の窓口を案内される。


やっぱりこういう手続きって面倒だよなあ。

たらい回しってほどじゃないけど、あっちこっち行かされて。

お役所なんてそんなもんか。


ようやく手続きが終わると、結構な時間が経っていた。

「はぁ、昼飯食いそびれたよ。」

もう時間はとっくに昼を過ぎて、もうすぐ夕方にもなろうか、という頃だった。


どっちにしろ腹が減った。

目に着いた定食屋に入ることにした。


妙な時間だからか、客は誰もいなかった。

「いらっしゃい。」


席についてから、注文してしまうと、後は料理がくるまではヒマである。

なんだかやることがないので、店内を見回して見たりする。


ここは流行ってるところなのかなあ、とか。

もしかして不味い店だから、客が誰もいないのかなあ、とか。

だんだん不安になってきたりする。


こればっかりは運というか、料理が来てみないことにはわからない。

「おまたせしましたー。A定食でーす。ごゆっくりどうぞー。」

さっそくいただくとする。

「いただきまーす。」


ん?うまい。

一口でわかるこのうまさ。

なんて、腹が減っていたせいもあるかもしれない。


とにかく、まずくなくて安心した。

というか、この店はアタリだな。

また来よう。


食べ終わって、お腹いっぱいになると、色んなことがどうでも良くなってくる。

「はぁー。」

今日から職探しかあ。

少し憂鬱になりながらも、次の職が決まるまで、ちょっとのんびりするか。

なんて考えたりもする。


今までこんなにのんびりできなかったからな。


職を失ったという不安な気持ちももちろんあるけど、

同時に心が少し軽くなるような感覚もある。


明日からどうしようかなー。

とりあえず冒険者ギルドに通ってみるしかないかー。

なんてぼんやり考えていた。

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