第9話 北風系ヤンデレと望まない告白

「ごめん、お待たせしちゃったかな」


「う、ううん。大丈夫。来てくれただけで十分嬉しいから」


屋上に行くと、そこにはクラスメイトの女子生徒がいた。

まずは男子生徒からの決闘の申し込みではなかったらしい。


彼女は僕の隣りにいる彩咲をちらっと一瞥すると、すぐに僕に向き直って言葉を続ける。


「え、えっと......。織女おりめさんも一緒じゃないと、だめかな......?」


「ごめんね、彩咲ささから離れたくないから」


また心にもないことが口をついて出る。

すっかり癖みたいになってる。


こんなふうに「僕が彩咲といたい」っていう趣旨のことを言わないと、彩咲からお仕置きされてしまうから。

昔、「彩咲が僕と離れたくないらしいから」って感じのことを口走ってしまったときに受けた罰はなかなか堪えたこともあって、注意しているのもある。


「うーん、そっか......。まぁ、どうせ答えはわかってるし、変に隠すのも良くないもんね......」


「ありがと。それで、僕に話したいことって何かな?」



僕の催促に女生徒が若干俯いて頬を染める。

......あ、これはだめなやつだ............。


「ちょ、ちょっと待っ......「私、空鷲そらわしくんのことが好きです!」......って......」


告白なら辞めてもらったほうが良いかもしれない、という想いから動いた僕の制止は間に合わず、言葉にされてしまった。

隣の彩咲は笑顔を貼り付けたままだけど、そこから垂れ流されてくる冷気がそれはもう今の感情をありありと伝えてくる。


だけどまずは目の前の状況をクリアしないとならない。


告白してもらえること自体はとても光栄で嬉しいことだし。


とはいえ、断らないといけないっていうことと、僕がどんな返答をしようとも告白されてしまった段階で夜の彩咲からのお仕置きが確定しているという事実に、憂鬱で重い気分になりながらも、なんとか口を開いた。


「それは......本気............?」


「はい、もちろんです。ただ、お付き合いしてもらえるとは思っていません。空鷲くんと織女さんの仲の良さは私だって知ってるし、そこに横恋慕するなんて最低だって思うし......。だから告白もするかどうか迷ったんだけど、どうせならきちんとフってもらって、前に進みたいと思ったんです。自分勝手なことをしてるっていうのはわかってるけど、どうしてもこの気持ちを留めておけなくって......。受験に集中するためにも、今のうちに切り替えられたらなって......。ごめんなさい」



一息で言い訳するように言い切る彼女。


いろいろ考えた上での告白らしい。

その必死な表情やら言い分を聞く限り、どうやら嘘告白でもないようだ。


僅かな期待も否定され、彩咲からのお仕置きが確定した瞬間だろう。


更に気が重くなるのを感じながら、彩咲の手前、「彩咲の素敵な彼氏」として及第点の回答をしないといけないこと、真剣に告白してくれた彼女に真摯に応えないといけないことが、肩の荷をさらに強力に重力の支配下へと移す。



「まずは、告白してくれてありがとう。素直に嬉しいです。だけど......ごめん。君の言う通り、僕は君の気持ちには応えられない。想ってもらって光栄なんだけど............ごめんなさい......」


いろいろ考えてみたけど、実際の気持ちを素直に伝えてみた。


「っ......。そう......だよね。いえ、気にしないで。本当にこの気持を伝えたかっただけだから......。きちんと応えてくれただけで嬉しいよ。ありがとございます......。それじゃあね......っ」


その言葉を最後に、僕らの横を通り抜けて屋上の出入り口へと駆けていく彼女の頬には、一筋の涙がきらめいて見えた。


その様子に、もともと想いに応えられはしなかったといえども彼女には悪いことをしてしまった、と申し訳ない気持ちが去来する。

けれど、その感傷的な想いも、隣から流れてくる気配に、すぐに現実に引き戻される。


彼女の後ろ姿を追いかけて屋上の出入り口を見つめていた視線をバッと慌てて彩咲の方に戻す。


そこにはさっきの彼女がいたときに浮かべていた石膏で固められでもしたのかってくらいの笑顔は一切なくて。というかどんな表情もそこにはなくて。

感情の抜け落ちた真っ暗な目で僕をひたすらに見つめるだけの顔が、そこにはあった。



「さ、彩咲......? 僕の対応、なにか良くないところあったかな......?」


そういうことじゃないんだろうな、とは思いつつも、彩咲が何も言わないのが怖すぎて、とりあえずおかしくないだろう質問を投げかける。


僕の質問から数秒間の沈黙。体感は数十分にも感じる空間だった。

真顔のまま見つめることで、僕にたっぷりの恐怖を押し付けたあと、彩咲のはぁっというため息が沈黙を破る。


無言の時間よりはましだけど、彩咲のため息にびくっと肩が勝手に反応してしまう。



夏凪晴・・・。いつも言っているでしょう? 悪いことをしたときは、自分でその罪を告白しなさいって。まさかこれだけのことをしでかしておいて、何が悪かったのかわからない、なんて言うんじゃないでしょうね?」

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