第1章 北風系ヤンデレとの日々〜脱出
第1話 ヤンデレとご飯の時間
「はいはぁい、なぁく〜ん。餌......じゃなかった。ご飯のお時間ですよぉ〜♡」
ガシャコンと重々しい音とともに鋼鉄製のドアが開閉され、グレーの打ちっぱなしコンクリートで囲まれた無味乾燥な......いや、悪い意味で趣のある部屋に天使のような見た目をした悪魔が入室してくる。
「はい、どーぞ。今日はね〜、なぁくんが大好きなお粥さんにしてみたよ〜。
嫌だなぁ、怖いなぁ......。
いや怖いっていうか、もうほんと、ね。
表向きは、彼氏である僕、
綺麗な目鼻立ちから放たれる微笑みの爆弾。
輝くような黒にピンクのインナーカラーを入れた腰まで伸ばしたストレートの髪。
160cm後半はある大きめの身長に、ほどほどに豊満な胸。
誰が見ても優しそうな美人と答えるだろう。
見た目はいい。抜群に。
そんな魅力的な彼女の好意なんだ。
ここはちゃんと笑顔で喜んでおかないと、おかしいじゃないか。
ジャラ。ジャラ。
自分の手元足元と首から伸びる鎖を引きずりながら、ゆっくりと彩咲に近づく。
「あ、あはは。彩咲、いつもありがとうね。いやぁ、今日も楽しみだな。早く食べたいな」
僕はヘラヘラと軽薄な笑みをこぼしながら、必死でこの腐った現状に悦びを見出している風のアピールをする。
いや、そうじゃないか。アピールしているというほど意識しているってわけじゃなく、目を背けてる。変に考えてしまわないようにしてるだけ。
「うふふふふ。なぁくんってば、そんなに欲しがっちゃって〜。可愛いんだからっ。それじゃ〜あ〜、いただきま〜す!」
フーッ、フーッ。パクッ。
彩咲はレンゲにおかゆをのせて、それに息を吹きかけて軽く冷ましてから、一口含む。
モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグぐっちゅぐっちゅぐちゅぐちゅ。
「んん! んんんんんん〜」
んで、『これでもかっ!』っていうくらいしっかり咀嚼して、口を
口にものをいっぱいに入れたままなので、鼻から音を出すような形で響く「ん」という声しか聞こえてこないけど、なぜか何を言いたいのかわかった。
......「なぜか」なんて御為ごかししても意味ないかな......?
すっかりこの状況が板についてきたってだけだろう。
彩咲が言いたいのはきっと、こういうこと。
「
間違っても僕が彩咲に逆らうわけにはいかないので、言われたままに、いつものように、軽く顎を前にだして適度に口を開く。
僕の従順な姿にご満悦の様子の彩咲。
ゆっくりと顔を近づけて......少し斜めに傾けられ......ぶちゅっと唇が合わせられる。
じゅるじゅると音を立てながら、じっくりと僕の口の中に流し込まれてくる、お粥だったもの。
..................彩咲の唾液の味しかしない。
おっと、他の風味もあった。米が唾液で分解されてできたのであろう糖分のほのかな甘味も感じられる。
いつもと変わらない日常の1コマ。
僕は自分でデンプンを分解して糖分に変換する自由すら許されないんだと思い知らされるような食事の時間。
「ぷはぁっ。はぁっはぁっ............なぁくん、どーお? おいし?」
「うん、最高に美味しいよ、彩咲。もう一口もらえないかなっ?」
嘘だ、本当は一口だってほしくない。というかこんなもの、食べ物に分類しちゃだめなやつだと思う。
心や頭は拒絶しているんだけど、僕の身体は、これを言わなきゃいけないと激しい警鐘を鳴らして、ほとんど勝手に発言してくれる。
仕方ないじゃないか。だって、これしか食べものが与えられないんだから、食べるしか無いんだよ。
そういうふうに躾けられたんだから、しょうがないだろう。
「あ〜ん♡ もぅ本当にかわいいよぉ〜。彩咲とチューしたくて仕方ないんだねっ? えっちなんだからっ」
「あはは、えっちな男でごめんね? 性欲も食欲も、どうも溢れちゃって仕方ないんだっ」
「うんうん、素直ななぁくん大好きだよ! じゃあ、も〜っといやらしい気持ちになって、今晩こそなぁくんが彩咲を押し倒す勇気が出せるように、今日も後でおクスリも飲みましょうね〜」
食後の時間が毎日つらい。
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