蛮族女王の情夫《ジゴロ》 第一部【ブリジットの章】
枕崎 純之助
序幕 その日、彼は彼女の所有物になった。
舞い散る血と飛び交う悲鳴。
血を流すのも悲鳴を上げるのも男たちばかりだ。
荷馬車を引く馬たちは錯乱してけたたましく
街から街へと流れる隊商は盗賊に襲われることも日常茶飯事で、そのために金をかけて
いつもならばそれで事足りるはずだったのだ。
だけどこの日ばかりは
「ダ、ダニアだ! ダニアの襲撃だ! 死んでも荷馬車を守れ!
そう叫んだ隊商の主である男は次の瞬間には首を斬り落とされてあっけなく死んだ。
重厚な両手
十数名の女戦士たちに次々と襲われ、
ダニア。
昔からこの地域に根付く赤毛に
この一族は生まれる赤子の9割が女児ばかりで、いずれも高身長で筋肉質に成長し、過酷な訓練によって成人の15歳を迎えるころには一人前の
彼女たちは諸国を流れ歩き、各所で略奪を行い日々の暮らしを続けていた。
そんなダニアは
「おい。まだ一人だけ生きてる野郎がいるぞ」
恐怖のあまり動けなくなり、荷車のそばにうずくまっていたボールドウィンはその声の主である女戦士に脇腹を蹴り飛ばされて、地面に仰向けに転がった。
体を
胸が圧迫されて呼吸が出来ずにボールドウィンは激しく
「ガハッ! ゴホゴホッ!」
「貧相なガキだな。
そう言って仲間を振り返った女戦士の表情が固まった。
彼女が同僚だと思って気安く声をかけた相手は、彼女たちの長だったからだ。
「ブ、ブリジット……し、失礼しました」
ブリジットと呼ばれたのは、赤毛ばかりの女戦士たちの中で1人だけ
周りの女戦士たちよりも一回り小さな体をしているが、それでも180センチほどはあるだろう。
しなやかな肉体を
少女は倒れているボールドウィンに歩み寄ると、女戦士の肩に手を触れた。
途端に女戦士がビクッとしてボールドウィンの胸から足をどけ、後方に下がる。
少女はその場にしゃがみ込むと、彼の頭から足までを品定めするように
それからボールドウィンの
ああ……今から死ぬんだ。
ボールドウィンは痛みに
死ぬのは怖いが、
そう思うと
だが、そこで彼は見たんだ。
ブリジットと呼ばれたその美しい少女が、その目を細めて
「この男を連れ帰り、我が情夫とする」
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