攻略本を丸暗記しているのに予想外のことが起こりまくる~無惨に殺される主人公の弟を助けて10年間地獄にいた転生者。見た目がラスボスに変わったのに主人公の弟が溺愛してくる件~

シェルビー

第1話

転生したら孤児だった件について


転生物の小説をたくさん読んでいたけれど、まさか自分がそうなると思わなかった。神様も転生すると分かっているなら知識をつけさせてほしいものだ。

現代日本でカップラーメンにお湯を入れる、電子レンジのボタンを押すことくらいしかやったことのない人間がどうやって生き抜くんだよ。


小汚い裏路地で目が覚めた私は、転生特典もないただの孤児でお金もない子供だった。自分の匂いを嗅いで臭くて変な声が出た。今までが清潔過ぎたのかもしれない。恵まれていたんだな。

神様いくらなんでもこれは酷いんじゃないか。私は転生前それなりにいいことをしていた。コンビニに募金箱があれば入れていた、道を尋ねられることも多く親切にしてきた。もちろん悪いいことなんてしたことがない。今のこの状況結構絶望しかない。自分の家庭環境を思い出してみた。嘘だろ。頭抱えてしまうくらい貧乏。それでも家という名の孤児院があるだけまだましな方だろう。


転生数時間で理解した、私は孤児だ。


「エリック大丈夫か?」

「ああ、大丈夫」


同じ孤児のカイトが手を伸ばしてきたので掴んで起き上がった。今日も靴磨きの仕事でもするんだろう。


「相変わらず軽いな。孤児院でたくさん食べ物出してくれればいいのにな。成長期になってもチビ確定だぜ」


つぎはぎだらけの服を見て今日も現実を確認した。

お腹いっぱい美味しいものを食べてみたい。


路地裏から出てきて目の前に広がる光景を見て声を出した。これゲームの世界だ。私が死ぬ直前にやっていた、名前も思い出せないゲームだ。

好きなのにどうして思い出せないんだろう。


思い出そうとすると頭がモヤモヤする。ゲームの世界?それならこの世界がどうなるのか思い出してみた。


この世界は中世ヨーロッパを思わせる世界で貴族階級がある世界。そして、魔法が使える世界なのだ。普通はここで興奮する。しかし魔力の使い方は、それなりのお金持ちが家庭教師をつけて習う世界で、孤児の私は見聞きしながら練習するしかない。孤児院の中では年上の人が文字を教えてくれた。主にカイトになる。そして私は書き上げた、直近で起こることをすべて紙に書いた。


主人公の弟が誘拐されて無惨に殺されることをきっかけに復讐に命を懸ける物語。主人公は弟を生き返らせたくて黒の魔導書を手に入れて、国民を全員犠牲にして魔法陣を完成させて術の発動するんだけど失敗して醜い姿になる。弟は生き返らず勇者や聖職者によって退治される。


とにかくこの展開を避けるために誘拐される日を確認して、この話を信じてくれたカイトと一緒にその場所に行った。主人公は侯爵家で弟は本来であればお金目的で誘拐されるという話だけれど、大事になった犯人は足をつかないようにするために殺すのだ。1週間過ごす小屋があるのだけれど、そこに私たちは向かった。小屋があるとわかると、私たちがしたことは脱獄犯がするように弟の下に穴を掘って、弟に似た人形を作って目くらましを作ったということだ。


誘拐される前に侯爵家に連絡するのは考えてみたけれど、犯人は長年働いていた使用人で手紙を書いてももみ消されるか、最悪こちらが殺されてしまう。だから誘拐された後に救うということにした。その日はモグラのように穴の中に待機していた。空気の問題は風の魔道具で何とかした。ずっと使うんじゃなくて、空気が薄くなった時に定期的に入れるようにした。


待機していると物音がしたので、寝静まるのを待って私たちは準備した人形を置いて、弟を連れて外に出て行った。穴の入り口から出て行き必死に走って森を抜けた。人のいる道に行くには子供が走るには時間がかかる。弟が気絶しているので、カイトと背負って交代で逃げなければいけなかった。

犯人が気が付くのが早く追手が追いかけてきたので、人目がないところを歩き逃げなければいけなかった。


絶望的な状況になってしまった。番犬が近くまで来ている。

「カイト、私が引き付けるからこの子を頼む」

「エリック、何をするんだ。このままここにいよう。」

「このままじゃ、全員死んでしまう。大丈夫私に考えがある。」

「また未来が見えるってやつか?あれも絶対じゃないだろう」

ポケットから紙を出してカイトに渡した。汗で濡れないように布に包んでいたから字も滲んでいない。

「直近で何があるか書いたんだ。この子の犯人のことも書いている。」

「それをもってお前が侯爵家に行ったらいいだろ」

「カイトがやりたいことがあることは知ってる。このまま孤児だったら学校もいけない。侯爵家が何とかしてくれる。義理に厚い人らしいから。文字を教えてくれてありがとう。」


私は走り出すと番犬は追いかけてきた。

カッコいいこと言ったけれどまじで死ぬかもしれない。


「エリック、すまねえ。死なないでくれ」


崖まで番犬を引き付けると暗闇の中から人が出てきた。雲の切れ間から月の光が地上を照らした時に顔がはっきり見えた。


このゲームの主人公だ。漆黒の黒髪で眼のふちが細く長いまつげで囲まれている魔眼の持ち主。その眉目秀麗の容姿はフィギュア化しても再現しきれていないから、加工職人が艶出しするくらいの人気キャラクター。でも直接見ると怖い。私のことを睨んでいる。殺気で殺される。


人嫌いの上位貴族で、ヒロインの聖女(結構可愛い)しか好意を抱かないチート級闇墜ち主人公が目の前にいるとか最悪すぎる。鋭い視線は私を見ている。私の足元から何か伸びてきた。何も言わずにこちらに向かってくるので足を後退させると、もう後ろに下がれない。一歩下がったら真っ逆さまに落ちてしまう。


ここで捕まったら地獄の拷問

落ちたら死ぬしかない


拷問描写もえげつないのに我慢できるはずがない。

水を大量に飲ませる

石の上に置く

磔にしてはちみつを塗って放置する


ゲームで見ているときはよかったけれど自分がされたらたまったものじゃない。覚悟が決まったので私は落ちることにした。

表情の変えない主人公は俺のことなんてゴミだと思っているだろう。しかしそれでいい。

俺は主人公の弟を救えた、これで主人公は闇落ちしない。闇の力に支配されて世界滅亡させない。


神様、もしいるなら苦痛なく殺してください。

カイトはこの世界の人間なのでどうか幸せにしてください。


ここで私の人生が終わりました。

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