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「でさ、参考までに聞くんだけど、茨央工業高校ってさ、難しい?」
「あの、射場君、さっきの話、ちゃんと理解した?」
「いやいや、だから参考として聞いてるんだって。復井高校以外今まで考えてこなかったからさ、他の学校の受験難度とか調べてないんだよ。俺、そういうの面倒くさいとか思ってたし」
タイチは鼻の頭を擦りながらばつの悪そうな顔で言ったが、クミはそれをすんなりと受け入れるわけにもいかないと思った。
受験に前向き、積極的な態度になったとも取れるけれども、穿った見方をすれば、簡単に貰える答えに手を出して達成感を得ようとしてる、とも取れる。
他人の意見に左右されやすいタイチのそれが無自覚のことならば、また他人の答えに左右されるだけじゃないのか。
クミはそう思って答えを返すのを躊躇った。
「高塚? あの・・・・・・」
押し黙ったクミの様子に機嫌を大きく損ねたのかとタイチは焦る。
クミとの会話を続けたいという気持ちから受験についての話を広げようと思ったのだけれど、安易な質問ばかりが続きすぎたのだろうか?
「あとで自分で調べなさい、って言おうかなとも思うんだけど、結局あとで聞いても今聞いても内容は変わらないし、その手間で将来の事を考える時間が損なわれるんだよね。将来の事を考えようって言ったばかりなのに、それはイジワルだとも思うの」
口を開いたクミはまじまじとタイチの目を見ながら話した。
そのつぶらでキリッとした瞳に見つめられてタイチは心臓の鼓動が早くなった。
「あ、え、イジワルだなんて思わないよ」
「私は思うの! だからね、ちゃんと教えてあげます。茨央工業高校は、成績低い人が滑り込みで入るってことで有名だよ」
「あ、ああ、有名、なんだ」
有名、と言われてしまうとタイチは自分がどれ程余所の学校に興味がなかったのかと少し可笑しくなった。
クミやアツシ、クラスメイトや他の組の生徒。
この文化祭準備期間中に交流の増えた生徒もいるのに、その誰もの
可笑しくて、淋しくなった。
「工業高校は入学までは簡単になってて、専門的なことは中で習うらしいよ。えっとでもね、茨央工業高校は機械とか扱う科と、薬品とか扱う科と、コンピューターを扱う科と分かれててね、それのどれを受けるかで変わるらしいよ、試験の採点科目」
「そうなんだ、高塚受けるだけあって詳しいな」
「これこそ調べたらわかる話なんだけどね」
自分の得意科目は何だろう、とタイチは考える。
薬品を扱うとすると理科が採点科目になるのだろうか。
化学反応についてはわかっていたが、元素記号は覚えるのが苦手だった。
コンピューターを扱うならパソコンが無いと駄目なんだろうか。
採点科目は、数学だろうか。
数式は覚えていたけれど証明問題は得意じゃなかった。
機械を扱うとすると、図画工作が採点科目なのだろうか。
得意不得意と言うより、教師に言われたことをやっていただけな気がする。
何かを作ることになっても見本に近いものが出来るだけでそれ以上でもそれ以下でも無かった。
そもそも受験に図画工作なんて出るのだろうか。
「高塚は、どの科志望なんだ?」
「私は薬品を扱う科、自然科学科って言うんだけど、そこに行こうと思ってるの。薬品関係の資格とかも取れるらしいよ」
「へぇー、高塚って理科得意なの?」
「うーん、得意ってわけじゃないんだけど。ほら、機械科に行くとなると溶接とか切断とかあるわけじゃない? 私、それの道具が恐いなーって思っちゃって」
弱気による恥ずかしさを誤魔化すようにクミはエヘヘと笑う。
「コンピューターの方は?」
「うちにパソコンが無いから、ちょっと自信無いなーって」
「ああ、それは俺も同じだ」
「情報の授業でパソコン扱う時も得意な子みたいにカタカタって出来ないもんね」
クミはキーボードを指で叩くふりをする。
タタタッ、と机を指で叩く。
文字を打つというよりピアノの鍵盤を叩いてるような指の動きだ。
私はこんな感じ、とクミの動きは人差し指でゆっくり机を押す動作に変わる。
あまりの遅い動きにたまらずタイチは笑ってしまう。
「あ、ヒドイ。そこまで笑うなんて、射場君も一緒って言ったじゃない!」
「俺は流石にもうちょっと早いよ。高塚、遅すぎ」
「嘘だよ、射場君だって絶対こんぐらい遅いクセに」
俺はこうだよ、とタイチは両手の人差し指で机をタタッと叩いた。
そんなに変わらないよ、とクミは頬を膨らませ不満げに指差した。
いやいや、とタイチはもう一度キーボードを叩く様を再現するとクミは、やっぱり遅いって、と笑って言った。
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