DIVE
外は真っ暗だった。B-777から飛び出すときに少しだけ綺麗な星々が見えた。
人生で最後に見る星かもしれないとアコスタは少し思った。
高度は1万メートル。
気温は氷点下50度。
実は地上より宇宙の方が近い。
夜明けはまだ少し先。
地球の丸さを少し感じられるが先のその先はやや青みがかっている。
白い薄い雲は遥か下。
顔につけた面体からは順調に酸素が吹き付けられている。顔の前だけは与圧されていることになるが吹き付ける酸素そのものが氷か刃のようだ。
地上を視認するためうつ伏せの姿勢を維持するため最初だけ腕を広げる。
だが姿勢を維持すると腕をすぼめ加速する。
防寒着を着ているとはいえ体温を失うことはできるだけ避けたい。
時速は300キロから400キロ手前ぐらいまでになる。
顔や肩体の上部にものすごい風圧を感じる。
<ダイブ・ダイブ>
<ダウン・ダウン>
<ファック・ファック>
<シット・シット>
急減圧で頭がおかしくなったか?
HALO降下は誰もができることではないが、誰もがやりたくないこと。
薄雲の高度まで降下。
雲に文字どおり突入。
風圧以外のものが体に当たっているのを感じる。
雲は水蒸気の塊なのだ。
ホワイトとブルーとグレーで視界はほぼゼロ。
このHALO降下、映画やアニメでよくある音声ガイダンスは実は装備されていない。
手首の高度計だけが頼りだ。
おそらく5000メートルあたり。
雲を突破。
まず最初に手首の高度計をチェック。
フィートのFはファックのF。
ファックのFは落第のF。
只今、アコスタは大気圏内を落第中。
雲を抜けたので地表を確認したい。対地位置もチェックしたい。
が、暗闇で何も見えない。
マジで減圧でやられたか?。
必死で体の管理、体の異常をチェックする。
指先が冷たい。
太ももと
体温調整も生きるために重要な要素。
高度計をチェック。
もう酸素を外しても良い高度。
しかし面体を外す余裕などない。
恐怖心から時折パラシュートを開きたくなるが降下時間が長くなるだけだ。
それより、地表を確認しなければならない。
高度計の横のGPSロケーターは緑のまま。位置的には正しいらしい。
真っ暗闇を顔面を真下にして急降下中。
正気の沙汰ではない。
まだ地表を視認できない。夜間降下の一番怖いところだ。減圧で視神経をやられてしまったのか。
恐怖心が襲い出す。
落ち着け、落ち着け。
顔を上げ地表と空の切れ目を探す。
ダークブルーの世界が広がってるなか、弱いグラデーションの差が感じられた。
そこが天と地の境目なのか?。
見えた。見えた。見えた。
地表だ。地面だ。大地とは人が寄って立つ場所だ。もうそこより落ちることはない。
恐怖からの開放。
今度は高度が気になる。
高度計を見る。
デジタル表示が真っ赤だ。
おいっ!。
近所の不良に声をかけられたときのようだ。
「
ジップを思いっきり引く。
ぐえっ。
ハーネスにものすごい衝撃と同じ場場所に痛みを感じる。
姿勢が真逆になる。
今まであれほど求めていた地表がものすごい速度で迫ってくる。
希望が恐怖へ、恐怖から開放へ。
両腕で思いっきりハンドルをひく。
四角いパラシュートが最大に広がる。
着陸姿勢を取らなければ、と、思った刹那。
難民の苦しみを生んだ、無秩序な大地がハードにアコスタを受け止めてくれた痛みと厳しさとともに。
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