26 アリバイ作り 1
王宮に戻ると、すでに娘のアカデミアでの大立ち回り件を知り、怒り心頭となった王妃ブリジットが待ち構えていた。
オリアンヌからの詫び状が、俺たちの馬車の到着よりも早く届けられていたのだ。
馬車の中、エミリーと二人で、どのような段取りで報告すれば最もブリジッドからの心証が良くなるか作戦を練っていただけに、してやられた感が強い。
「元気な姿をお見せしてきなさい、とは言いましたが物には限度というものがあります」
全くそのとおり。返す言葉もない。
そもそも父母の勧めでアカデミアに行くことになったのは、第一位の王位継承権を持つジョセフィーヌの健在を示す意図があった。
病み上がりの娘を急かすようにして外へ出したのは、第二位の継承権を持つ庶子の男児を担ぎ上げようとする一派が水面下での工作を進めつつあったからだ。
それだけジョセフィーヌの立ち位置が怪しくなっている情勢下にあって、器にあらずという評判が立てば本末転倒も良いところだった。
「ブリジット様。わたくしが悪いのです。お姉さまはわたくしのことをかばって……」
「そうです。エミリー。貴女がしっかりこの子を見ておかないからです。まったく、一体何のための付き添いなのだか……」
エミリーと並んでブリジットからのお小言を聞いていて分かってきたことがある。
以前のジョセフィーヌは、自分では両親の前で上手く良い子を演じているつもりでいたようだが、実際は幼少の頃から、かなりのお転婆ぶりを披露し、両親を困らせていたらしい。
ブリジットは、記憶も戻らないのに、そういう困ったところだけ昔のままで、と嘆きながらも、最後には怪我がなくて本当に良かったと、実の娘の細い身体を優しく抱きしめた。
*
その日の夜、寝室でアンナと二人きりになると、俺は昼間話題に上ったサナトスという男について尋ねてみた。
その名を聞くと、アンナは一目でそれと分かるほど嫌悪感を露わにした。
「ただの飲んだくれです」
とピシャリ。
「でもかなり高名な御方なのでしょ? 剣の指導を付けてもらえるように口利きをして欲しいと頼まれましたよ?」
実際にはまだそこまでの話にはなっていないのだが、セドリックとパトリックがしていた会話を引き合いに出して、サナトスに関する話をせがんだ。
アンナは溜息をついてから、表向きのサナトスの評判について話し出した。
なんでも三十年近く前、あちこちの戦いで大きな武功を立てたそうで、
三十年前と言えば、おそらく父上ヴィクトルがアークレギスで活躍するよりも前の話だ。
そんな凄い人物の噂があれば、俺もどこかでその名を耳にしていてもおかしくないと思うが、名前はおろか、ソードマスターという二つ名にも覚えがなかった。
国中にその名が
実際の剣の腕前はさておき、エミリーにああ言ってしまった手前、アリバイ作りのためにも一度そのサナトスという男に会っておかねばならない。
サナトスは、ジョセフィーヌの父親である現国王ブレーズが王位に就いたときから、食客としてこの王宮に住み着いているらしい。
俺がサナトスに会いたいと言うと、アンナは渋々ながら、それなら朝にいたしましょう、と言った。
常に酔っぱらっているので、まともに会話をするつもりなら、おそらく朝起きてすぐの時間帯が一番マシだろうと言うのだ。
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