02 病の床で目覚めて 2


 自分の心に巣食う違和感の正体をはっきりと自覚してからは、ベッドの中にいても妙に落ち着かない気持ちになった。

 男の自分が女性の身体の中にいることの罪悪感と気恥ずかしさによって、誰にも……、侍女や母親の目に対しても、この姿を晒しておくことが居たたまれなくなるのだった。

 寝返りを打ち、ふくらんだ乳房が自分の手に当たるのを感じただけでも慌てふためいてしまう。


 部屋に誰もいなくなったとき、遂に我慢できなくなり、動かない身体を押してベットからい出すと、部屋の隅にある鏡の前まで歩いていった。

 そう鏡。

 この家には全身を映すほどの大きな鏡があるのだ。

 それだけで自分がどれほど裕福な家の娘であるのかが推し量れる。


 中を覗き込むと、そこには見知らぬ女性が映っていた。

 せっていただけあって、多少やつれて見えるが、そうであっても十分魅力的だと言える。若く美しい女性だ。

 自分の姿だというのに、その鏡の中の女性から真正面に見つめられてドギマギしてしまう。

 それに、それが自分の姿だというのに、何も思い出せることがなく、そのことに酷く落胆を覚えた。


 そうしてやはり、この身体は自分のものではないのではないか、という奇天烈きてれつな考えに至ってしまうのだった。

 記憶がない、というだけでも一大事であるはずなのに、この持て余す事実とどう向き合えばよいのか。


 何も考えがまとまらないままベッドまで戻ると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 たったこれだけ歩いただけで、酷い眩暈めまいと息切れをしている。

 どこかの国の王宮かと思う程、自分一人に対し無駄に広い部屋だ。

 いや、それもそうなのだが、一体なんと虚弱な身体なんだ……!


 息を整えつつ、何はともあれ今は体力を回復することこそ最優先だと考え、また眠りに就くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る